翌日から、小夜の居場所となった部屋に奇妙な手紙が届き始めた。朝起きると、ドアの下の隙間から白い物体が覗いているのだ。
なんだコレと頭にクエスチョンマークを浮かべて広い、開けると。
『文通しよ! 手紙でなら慣れるのも早いし、現実世界でもすぐに順応できるっしょ!』
元気な筆跡で、梨乃という名を語尾に添え、届いた手紙。
しょうがなく返事を書き、ドアの下に挟ませておいた。しばらくすると、それは梨乃の手によって抜き取られる。
『わかりました。頑張ります』
それが数日続いたけど、敬語で丁寧に返していたら、学校が始まってしばらくした頃からぱたりと来なくなった。
「だめだったかぁあ」
「雅はこれで慣れてくれたのにな」
元々友達だった梢の家に厄介になることにした梨乃は、雅、涼夏、そして今回の小夜、と三人の入居を見守ってきている。
そして、メンバーたちに対して梢のように塩対応ではなく、お節介と言われようががんがん関わり、懐柔してきた。まさに百戦錬磨。一度は肩を落としたが、すぐに「よし」と顔を上げた。
「次の作戦に移ろう」
「次の作戦?」
「単純だよ。ひたすら話しかける! ・・・・・・これが最後の作戦だけど」
「ああ、それ案外ウザかったよ? まあ、梨乃だから許される行動だね」
その作戦を仕掛けられた涼夏は笑う。
二人はいそいそと二階に上がった。梢はそんな二人を、もう放っておけばいいのに、という目で見ていた。
ある日、こんこん、と扉がノックされた。小夜は急いでベッドから起き上がる。ドアを開けると、梨乃と涼夏が訪ねてきていた。
「小夜〜。おはよ」
「お、おはようございます」
もうほっといてくれるって言ったのに・・・・・・あれはどうなったんだ? 若干引きつつおずおずとうなずく。
「学校、どう? って言っても、去年と一緒だよね、中二だもん」
「あ、はい」
学年全体でもそこまで人数も多くないので、メンバーもそんなに変わらない。その旨をぼそりと付け足す。
「あ〜、見てみたいなあ、学校での小夜ちゃん。授業参観、行っちゃおっかな?」
わざとらしく茶目っ気を出す涼夏に、小夜はぎこちなく口角を上げた。なんなんだ、これ。
「どんな感じなの? 友達は? あ、彼氏はいるの?」
「ちょっと梨乃ちゃん。さすがに中二で彼氏は早いって」
「友達も彼氏もいませんよ。友達なんて、面倒なだけじゃないですか」
思わず出てしまった冷たく鋭利な言葉に、しまったと思いながらも、これで関わるのはやめてくれるだろうとも確信した。
友達なんて面倒なだけ。それは、今友達になろうとしている涼夏や梨乃たちを、直接的に傷つける言葉だから。
驚いた顔をして、涼夏の口から急いで出て来ようとした謝罪に被せて、小夜は目を逸らしたまま続けた。
「隠し事しまくりで、なにが親友ですか。なにがズッ友ですか。そんな遠い友達、私にはいりません。私も友達にはなりません」
そのまま反応を聞くのが怖くて、二人を締め出すように扉を閉めた。
今こそ友達なんてくだらない存在いないけど、小学校のときはたくさんいた。友達の多さがモテる秘訣なのだと信じて、一生懸命頑張った。愛想笑いも覚えた。
幼稚園来の親友だっていた。雅とはちょっと違う部類の、輝くような美人で、溌剌としている子が親友だった。きっとこれから中学校高校と上がっていって、いつかは就職しても、きっと飲める関係なんだろうと思っていた。
ニキビの相談をして、メイクを教えてもらって、代わりに数学を教えてあげて。愚痴を言い合って、上司ウザいねとうなずき合って。
親友だから。ズッ友だよ!
それでも、美人な親友は、見事に裏切ってくれた。彼氏欲しいねと言い合っていたのに。できたら絶対報告しようねと約束したのに。
小四で告白されて、OKしたらしい。他の友達から聞いた話だ。小四から卒業まで、小夜を騙していたのだった。
卒業式のあとに彼氏がいるの、報告遅れてごめんねと謝られた。正直、ショックだった。それってつまり、嘘ついてたってことだよねって。
悲しいのに、悔しいのに、そっかと答えて、強がってしまった。
その子は受験して私立に行ってしまい、それ以来連絡も取っていない。他の友達とも、徐々に距離を置くようにした。
休み時間は本を読む。返事は生返事。見事に嫌われて、陰口を叩かれるようになったけど、嘘をつかれるよりはマシだと思った。
それでも今は、このシェアハウスのメンバーに隠し事をしている。それも、たくさんの。この前雅と打ち解けようと話題を探していたら、全て話したくないことだとわかった。そんな自分がたまらなく嫌になって、もう友達になる努力はしなくなった。
母が作ってくれたアルバムには、親友と二人の写真がたくさん入っている。それも、今どこにいったかはわからない。引っ越しのどさくさにまぎれて、なくしてしまったのだ。後悔は、していない。
✳︎ ✳︎ ✳︎
「なんかあったのかな。小夜」
「うん。友達・・・・・・が、信用できないんじゃない」
「隠し事ばっかり、って言ってたよ」
「私も・・・・・・隠し事ばっかりだ」
なんだコレと頭にクエスチョンマークを浮かべて広い、開けると。
『文通しよ! 手紙でなら慣れるのも早いし、現実世界でもすぐに順応できるっしょ!』
元気な筆跡で、梨乃という名を語尾に添え、届いた手紙。
しょうがなく返事を書き、ドアの下に挟ませておいた。しばらくすると、それは梨乃の手によって抜き取られる。
『わかりました。頑張ります』
それが数日続いたけど、敬語で丁寧に返していたら、学校が始まってしばらくした頃からぱたりと来なくなった。
「だめだったかぁあ」
「雅はこれで慣れてくれたのにな」
元々友達だった梢の家に厄介になることにした梨乃は、雅、涼夏、そして今回の小夜、と三人の入居を見守ってきている。
そして、メンバーたちに対して梢のように塩対応ではなく、お節介と言われようががんがん関わり、懐柔してきた。まさに百戦錬磨。一度は肩を落としたが、すぐに「よし」と顔を上げた。
「次の作戦に移ろう」
「次の作戦?」
「単純だよ。ひたすら話しかける! ・・・・・・これが最後の作戦だけど」
「ああ、それ案外ウザかったよ? まあ、梨乃だから許される行動だね」
その作戦を仕掛けられた涼夏は笑う。
二人はいそいそと二階に上がった。梢はそんな二人を、もう放っておけばいいのに、という目で見ていた。
ある日、こんこん、と扉がノックされた。小夜は急いでベッドから起き上がる。ドアを開けると、梨乃と涼夏が訪ねてきていた。
「小夜〜。おはよ」
「お、おはようございます」
もうほっといてくれるって言ったのに・・・・・・あれはどうなったんだ? 若干引きつつおずおずとうなずく。
「学校、どう? って言っても、去年と一緒だよね、中二だもん」
「あ、はい」
学年全体でもそこまで人数も多くないので、メンバーもそんなに変わらない。その旨をぼそりと付け足す。
「あ〜、見てみたいなあ、学校での小夜ちゃん。授業参観、行っちゃおっかな?」
わざとらしく茶目っ気を出す涼夏に、小夜はぎこちなく口角を上げた。なんなんだ、これ。
「どんな感じなの? 友達は? あ、彼氏はいるの?」
「ちょっと梨乃ちゃん。さすがに中二で彼氏は早いって」
「友達も彼氏もいませんよ。友達なんて、面倒なだけじゃないですか」
思わず出てしまった冷たく鋭利な言葉に、しまったと思いながらも、これで関わるのはやめてくれるだろうとも確信した。
友達なんて面倒なだけ。それは、今友達になろうとしている涼夏や梨乃たちを、直接的に傷つける言葉だから。
驚いた顔をして、涼夏の口から急いで出て来ようとした謝罪に被せて、小夜は目を逸らしたまま続けた。
「隠し事しまくりで、なにが親友ですか。なにがズッ友ですか。そんな遠い友達、私にはいりません。私も友達にはなりません」
そのまま反応を聞くのが怖くて、二人を締め出すように扉を閉めた。
今こそ友達なんてくだらない存在いないけど、小学校のときはたくさんいた。友達の多さがモテる秘訣なのだと信じて、一生懸命頑張った。愛想笑いも覚えた。
幼稚園来の親友だっていた。雅とはちょっと違う部類の、輝くような美人で、溌剌としている子が親友だった。きっとこれから中学校高校と上がっていって、いつかは就職しても、きっと飲める関係なんだろうと思っていた。
ニキビの相談をして、メイクを教えてもらって、代わりに数学を教えてあげて。愚痴を言い合って、上司ウザいねとうなずき合って。
親友だから。ズッ友だよ!
それでも、美人な親友は、見事に裏切ってくれた。彼氏欲しいねと言い合っていたのに。できたら絶対報告しようねと約束したのに。
小四で告白されて、OKしたらしい。他の友達から聞いた話だ。小四から卒業まで、小夜を騙していたのだった。
卒業式のあとに彼氏がいるの、報告遅れてごめんねと謝られた。正直、ショックだった。それってつまり、嘘ついてたってことだよねって。
悲しいのに、悔しいのに、そっかと答えて、強がってしまった。
その子は受験して私立に行ってしまい、それ以来連絡も取っていない。他の友達とも、徐々に距離を置くようにした。
休み時間は本を読む。返事は生返事。見事に嫌われて、陰口を叩かれるようになったけど、嘘をつかれるよりはマシだと思った。
それでも今は、このシェアハウスのメンバーに隠し事をしている。それも、たくさんの。この前雅と打ち解けようと話題を探していたら、全て話したくないことだとわかった。そんな自分がたまらなく嫌になって、もう友達になる努力はしなくなった。
母が作ってくれたアルバムには、親友と二人の写真がたくさん入っている。それも、今どこにいったかはわからない。引っ越しのどさくさにまぎれて、なくしてしまったのだ。後悔は、していない。
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「なんかあったのかな。小夜」
「うん。友達・・・・・・が、信用できないんじゃない」
「隠し事ばっかり、って言ってたよ」
「私も・・・・・・隠し事ばっかりだ」