年が明けてーー。
ときどきだけど、雅が学校に通えるようになり出して、涼夏も大学受験を終え、それのお祝いを兼ねて行ったショッピング。
いつものように、小夜につけるイヤリングを選んだり、雅の筆記用具を探したり、涼夏の定期入れをチョイスしたり、梢の食べる謎のものを分けてもらったり、梨乃の口紅で喧々囂々と言い合ったりしていた。
「明るすぎる。これじゃケバい女に見られるって。振られるね、絶対」
涼夏が、はっきりと赤な口紅を見て、首を振る。小夜も大きくうなずいて、ほんのりピンク色の筒を梨乃の右手に握らせる。
「わかる。男の子は、ナチュラル、自然が好きなんだよ。薬用リップでいいくらいなのに。ほら」
「う、うん・・・・・・」
梨乃が珍しく若干引きながら、おずおず受け取る。
雅が反対側で、「だめだよ! そんなの言って、塗ってること自体わかんないんじゃ」と声をあげる。結構雅は化粧が上手い。
「そうだよ。しっかり化粧してたら、わっ、ボクのためにおしゃれしてくれたんだ、きゅん! てなわけでぇ」
梢が力強く持論を語りながら、さっき涼夏が切り捨てた口紅を手に取って、梨乃の左手に包ませる。
そのとき。
「ねえ、ヤバいでしょ」「あれ、小夜だよね?」「あの、ぼっちの」「なにあれ」「あの人たち、頭おかしいって」
くすくすと言う嘲笑が、耳に届いた。声の主は、見なくてもわかる。クラスの女王・・・・・・いや、一人ではないので王家、だ。四、五人でつるんでいる、クラスの中心。
「あんなやつと友達なんてさ」「恥ずいね。見て、あんなに明るく振る舞っちゃってさ」「二重人格。引くわ」「絶対無理してるよね」
話は続く。ぎゅっと目を瞑って、聞こえないふりをしようとした。自分で選択した道だけど、やっぱり、辛い・・・・・・
「私にとっては、人の陰でこそこそ言うやつの友達の方が恥ずかしいけどね? あ、本人は言うまでもないけど」
凛とした声にぱっと視線を上げると、涼夏がずかずかとそちらに近づいて、言い放ったところだった。どうやら、会話の内容だけで全てを察したみたいだった。
「はい?」リーダー格の子が精一杯意地を張ってるけど、明らかにいくつも先輩の涼夏に尻込みしている。
続いて梨乃が、ずいっと前に出てきた。
「見たところ、あたし中三だけど、学校一緒みたいだね。見たことある顔が・・・・・・あ、言っとくけどあたしの彼氏、結構ヤバい人」
高二だし、学校は違うし、彼氏は絶賛募集中だし。大嘘だらけだけど、クラスのロイヤルファミリーはすっと青ざめた。
「下手したらいじめになるよ? いや、下手しなくても」
雅もぼそりと言う。いじめ、と言う単語にびくりと怯んだ顔があった。
「あんたたち、彼氏いるの?」
「ま、まあ・・・・・・」
梢の静かな問いに、ようやく押されっぱなしだった勢いを少し取り戻し、小さくうなずく。ここは答えないと恥ずかしいところ。うなずく以外の選択肢はない。
「彼氏の前では猫被ってんでしょ。二重人格〜。引くわ」
見事な煽りが炸裂した。ぎっと梢を睨み返すけど、返す言葉が見つからないらしい。自覚はあるみたいだ。
「大体、この人たちは友達じゃない」
ようやっと言い訳を始めるのかと、ちらりと相手の子たちの瞳に、余裕が戻った。
「へえ〜、じゃあなんなの?」「やっぱ、ぼっちだもんね」「言ってみなよ」「友達じゃなくて、なに?」
責めるような視線に負けじと胸を張った。
「家族だから。友達なんかじゃないから」
その、勇気を振り絞って出した声に、相手の子たちは「は?」とバカにしたように、いつもみたいな薄く笑みを浮かべたけど、涼夏は頭を撫でてくれた。
「うんうん。そういうことなんで。あんたたちみたいな、薄っぺらい関係じゃないんで」
一応あの人たちもロイヤルファミリーと言われているくらいだから、ファミリーくらい関係は深いのだろうけど。きっとショッピングは毎週行ってるんだろうし、お泊まり会だっていっぱいしてるのだろうけど。
でも、毎日接して、小さな口喧嘩を乗り越えて、姉妹みたいに過ごしてきた私たちにはきっと、負ける。
たとえ、陰口がエスカレートしても、直接的な嫌がらせが始まっても。
なんだか、いつもよりはダメージが少なくなるような気がした。
すっきりした胸を抱えて、そこを離れる。
占いをやってもらった。
雅、涼夏、梨乃、梢、の順番で占ってもらい、最後にやっと順番が回ってくる。
「おっ、小夜。やっとだねー」
「金運は最悪、恋は叶いません。失せ物は諦めましょう。仕事運はぼろぼろ、勉強運は話になりません」
「おみくじじゃんそれ。大凶だし」
梨乃のすました言葉に思わず吹き出してから、椅子に座って占い師さんと向き合う。すると、その切長の目がきゅーっと細くなった。
「よかったわ。楽しそうね」
「え?」
「言ったでしょ。普通の暮らしが一番だって考えるときが来る。だけど、それを打ち壊すような人々に出会えるって」
「ああっ」
その言葉に、電撃のように頭の中に入ってきた姿があった。
いつかの凄腕美人占い師。あの不吉な言葉には、続きがあったんだ。
「そうね、金運は頑張れば舞い込んでくる。恋は積極的にすれば叶います。失せ物は、ひたすら探すといいわね。勉強運は上げようと思えば上がる。今年は努力の年です」
「あれ? おみくじ?」
占い師さんはふふっと口辺に微笑みを浮かべて、「おみくじも占いの一つよ」とうなずいた。
店を出て、梨乃はにやにやと言う。
「よかったねえ小夜、大凶の年じゃなくて」
「でもさ、大凶だってさ、私は別にいいよ?」
もちろん嫌だけど、精神的にきついけど、でも、全部の運が軒並みぼろぼろでも。
「ね。いいよね、別に」
雅が笑みを浮かべる。
「家族運はサイコーだよ。絶対」
涼夏が笑って、梨乃もうなずく。
「・・・・・・照れるな、なんか」
「まあ。家族運なんて存在しないからね」
いつも通り、梢が空気を読まずに冷静に言った。それから、四人に釣られたようにふんわりと笑顔を浮かべたのだった。
ときどきだけど、雅が学校に通えるようになり出して、涼夏も大学受験を終え、それのお祝いを兼ねて行ったショッピング。
いつものように、小夜につけるイヤリングを選んだり、雅の筆記用具を探したり、涼夏の定期入れをチョイスしたり、梢の食べる謎のものを分けてもらったり、梨乃の口紅で喧々囂々と言い合ったりしていた。
「明るすぎる。これじゃケバい女に見られるって。振られるね、絶対」
涼夏が、はっきりと赤な口紅を見て、首を振る。小夜も大きくうなずいて、ほんのりピンク色の筒を梨乃の右手に握らせる。
「わかる。男の子は、ナチュラル、自然が好きなんだよ。薬用リップでいいくらいなのに。ほら」
「う、うん・・・・・・」
梨乃が珍しく若干引きながら、おずおず受け取る。
雅が反対側で、「だめだよ! そんなの言って、塗ってること自体わかんないんじゃ」と声をあげる。結構雅は化粧が上手い。
「そうだよ。しっかり化粧してたら、わっ、ボクのためにおしゃれしてくれたんだ、きゅん! てなわけでぇ」
梢が力強く持論を語りながら、さっき涼夏が切り捨てた口紅を手に取って、梨乃の左手に包ませる。
そのとき。
「ねえ、ヤバいでしょ」「あれ、小夜だよね?」「あの、ぼっちの」「なにあれ」「あの人たち、頭おかしいって」
くすくすと言う嘲笑が、耳に届いた。声の主は、見なくてもわかる。クラスの女王・・・・・・いや、一人ではないので王家、だ。四、五人でつるんでいる、クラスの中心。
「あんなやつと友達なんてさ」「恥ずいね。見て、あんなに明るく振る舞っちゃってさ」「二重人格。引くわ」「絶対無理してるよね」
話は続く。ぎゅっと目を瞑って、聞こえないふりをしようとした。自分で選択した道だけど、やっぱり、辛い・・・・・・
「私にとっては、人の陰でこそこそ言うやつの友達の方が恥ずかしいけどね? あ、本人は言うまでもないけど」
凛とした声にぱっと視線を上げると、涼夏がずかずかとそちらに近づいて、言い放ったところだった。どうやら、会話の内容だけで全てを察したみたいだった。
「はい?」リーダー格の子が精一杯意地を張ってるけど、明らかにいくつも先輩の涼夏に尻込みしている。
続いて梨乃が、ずいっと前に出てきた。
「見たところ、あたし中三だけど、学校一緒みたいだね。見たことある顔が・・・・・・あ、言っとくけどあたしの彼氏、結構ヤバい人」
高二だし、学校は違うし、彼氏は絶賛募集中だし。大嘘だらけだけど、クラスのロイヤルファミリーはすっと青ざめた。
「下手したらいじめになるよ? いや、下手しなくても」
雅もぼそりと言う。いじめ、と言う単語にびくりと怯んだ顔があった。
「あんたたち、彼氏いるの?」
「ま、まあ・・・・・・」
梢の静かな問いに、ようやく押されっぱなしだった勢いを少し取り戻し、小さくうなずく。ここは答えないと恥ずかしいところ。うなずく以外の選択肢はない。
「彼氏の前では猫被ってんでしょ。二重人格〜。引くわ」
見事な煽りが炸裂した。ぎっと梢を睨み返すけど、返す言葉が見つからないらしい。自覚はあるみたいだ。
「大体、この人たちは友達じゃない」
ようやっと言い訳を始めるのかと、ちらりと相手の子たちの瞳に、余裕が戻った。
「へえ〜、じゃあなんなの?」「やっぱ、ぼっちだもんね」「言ってみなよ」「友達じゃなくて、なに?」
責めるような視線に負けじと胸を張った。
「家族だから。友達なんかじゃないから」
その、勇気を振り絞って出した声に、相手の子たちは「は?」とバカにしたように、いつもみたいな薄く笑みを浮かべたけど、涼夏は頭を撫でてくれた。
「うんうん。そういうことなんで。あんたたちみたいな、薄っぺらい関係じゃないんで」
一応あの人たちもロイヤルファミリーと言われているくらいだから、ファミリーくらい関係は深いのだろうけど。きっとショッピングは毎週行ってるんだろうし、お泊まり会だっていっぱいしてるのだろうけど。
でも、毎日接して、小さな口喧嘩を乗り越えて、姉妹みたいに過ごしてきた私たちにはきっと、負ける。
たとえ、陰口がエスカレートしても、直接的な嫌がらせが始まっても。
なんだか、いつもよりはダメージが少なくなるような気がした。
すっきりした胸を抱えて、そこを離れる。
占いをやってもらった。
雅、涼夏、梨乃、梢、の順番で占ってもらい、最後にやっと順番が回ってくる。
「おっ、小夜。やっとだねー」
「金運は最悪、恋は叶いません。失せ物は諦めましょう。仕事運はぼろぼろ、勉強運は話になりません」
「おみくじじゃんそれ。大凶だし」
梨乃のすました言葉に思わず吹き出してから、椅子に座って占い師さんと向き合う。すると、その切長の目がきゅーっと細くなった。
「よかったわ。楽しそうね」
「え?」
「言ったでしょ。普通の暮らしが一番だって考えるときが来る。だけど、それを打ち壊すような人々に出会えるって」
「ああっ」
その言葉に、電撃のように頭の中に入ってきた姿があった。
いつかの凄腕美人占い師。あの不吉な言葉には、続きがあったんだ。
「そうね、金運は頑張れば舞い込んでくる。恋は積極的にすれば叶います。失せ物は、ひたすら探すといいわね。勉強運は上げようと思えば上がる。今年は努力の年です」
「あれ? おみくじ?」
占い師さんはふふっと口辺に微笑みを浮かべて、「おみくじも占いの一つよ」とうなずいた。
店を出て、梨乃はにやにやと言う。
「よかったねえ小夜、大凶の年じゃなくて」
「でもさ、大凶だってさ、私は別にいいよ?」
もちろん嫌だけど、精神的にきついけど、でも、全部の運が軒並みぼろぼろでも。
「ね。いいよね、別に」
雅が笑みを浮かべる。
「家族運はサイコーだよ。絶対」
涼夏が笑って、梨乃もうなずく。
「・・・・・・照れるな、なんか」
「まあ。家族運なんて存在しないからね」
いつも通り、梢が空気を読まずに冷静に言った。それから、四人に釣られたようにふんわりと笑顔を浮かべたのだった。