ある土曜日の昼、久しぶりにアヤさんの姿を見た。涼夏の学校は午前中だけ授業があるらしくて、もうすぐ帰って来るんじゃないかな〜、と思っていた頃だ。外は紅葉。
 ダイニングテーブルで、アヤさんと梢、二人仲良く、勉強を教え教わっている。完全にカップル・・・・・・なんて言ったら梢に蹴りをいれられてしまう。
「アヤさん。今日は抜けてきてもいいの? 真っ昼間なのに」
 梨乃が興味深げに、梢との会話が途切れたタイミングで聞いた。
「あ、はい。今日は皆さんでお出かけだそうです」
「へええ」
「はい。てか大体、俺は、梢さまつきなので」
「彼氏だもんね〜」
 さらりと雅が入れた合いの手に、思わず吹き出す。しかし梢はそれよりも、アヤさんの言葉に引っかかったようだった。
「へえ、いいの〜? 勝手に私つき名乗ってて」
「勝手にじゃないですって」
 アヤさんが反論する。梢は鼻も引っかけない。
「ま、いいけどね」
「勝手にじゃないんですけど・・・・・・」
 二人を気遣ってか、梨乃はそこから離れてソファに寝転がった。ちょうど勉強が一段落した小夜も、雅もそれに続き、ソファに座る。
「ねえ、雅」
「うん」
「梢って、なんでこのシェアハウス始めたの?」
「ああ、そろそろ教えてもいいかなぁ。もう半年経つしなあ」
「え?」
 たかが半年の新参者が、容易に踏み入れてはいけない話なのか。思わず後悔が胸を突く。
「こら。もったいぶらないの!」
「涼夏」
 えへへ、と雅が照れ笑いを浮かべる。制服姿の涼夏が後ろに立っていた。「おかえりなさいませ」とアヤさんが言う。それに笑顔で答えて、涼夏はソファに座った。
「ただいま」
「まあ、ちょっとは辛い話なんだけど」
 梨乃がうんしょっと起き上がった。その周りに、小夜、雅はソファに駆け寄る。
「あの子さあ、有名企業の社長令嬢なの。ここは、その社長さんのいくつもあるうちの、一つの別宅」
 なるほど。
 梢があの歳でこんなに大きな家を持っていることに納得がいった。
「でね、まあ、一人で住んでみるかーってなったんだって」
「一人暮らしの予行も兼ねて」
「でもさ、梢ちゃん、寂しがりで、一人は嫌で」
「で、あたしが誘われた、と」
「シェアハウスにしても構わないって許可もらったんだって」
「で、私たちは今ここにいる」
 梨乃、雅、涼夏が交互に説明してくれる。最後に後ろから、梢が言った。
「要するにまあ、捨てられたんだよね」
「梢」
「捨てられてなどいません」
「いやいや、おかしいでしょ。一人暮らし予行のはずが、シェアハウスもオッケーって。詰まるところ、厄介払いできたらいいんでしょ」
 吐き捨てるように言う。梢は、家族に失望し、孤独にたえてきたのだろう。
 その言葉に、よっ、我らが母、涼夏っ、といういつかの梢の野次が重なった。