ーーーーあれから2年、結衣は、今、小さなアパートで子供と二人で暮らしている。
 

あの後、玲子のアパートの管理人が、玲子の隣の住人から異臭がすると連絡が入り、死後十日たった、腐敗の進んだ玲子を発見した。

当初は外傷がなく、捜査は難航したが、やがて、裕介が逮捕された。

警察の見解は、不倫の別れ話のもつれからの犯行と断定され、無実を最後まで訴えていた裕介は、結局逮捕された。これを機に、結衣は裕介と離婚した。



ーーーー「頼むよ、結衣、俺のアリバイを証明してくれ。
この通りだよ!」

「そんなこと言われても困るわ。だって裕介、その日出張だったじゃない。それこそ、出張先のホテルの(かた)に、アリバイ証明して貰ったら?」

「……出張にはいってない。その日は、近くのビジネスホテルに泊まったんだ」

「あら?どうして?……」

結衣は、オレンジベージュの唇を、持ち上げると、耳に髪をかける。耳に光るのはラピスラズリのピアス。

裕介の顔が、みるみる恐怖に包まれていく。

「き、気づいてたんだろ?……俺が悪かった!……玲子と……浮気なんかして……」

フローリングの床に、頭を擦り付けながら、あのプライドの高い裕介が、懇願している様子に結衣は、隠すことなく、笑みを浮かべた。

それはやがて、歓喜の声へと変わる。

「あはははははははっ」

気が触れたように笑う、結衣の様子に、裕介の顔色が変わる。

「……ま、さか……お前……」

裕介の身体は、小刻みに震えながらも、続く結衣の言葉を、待っている。

「……裕介、貴方には、唯一感謝してることがあるの」

結衣は、愛おしそうに、お腹を撫でながら、にっこり微笑んだ。

「この子が私の幸せなの。……だからね……もう貴方は、要らないモノなの……玲子にあげる」

あの時の絶望感に満ちた裕介の顔が、可笑しくて、結衣は、未だに忘れられない。


ーーーーその翌日だった。早朝に警察官が訪ねてきて、裕介は、二度と家に戻って来なかった。