現場状況だけなら、志田大樹が、蛍を刺した後、凶器を持って、逃走したと考えるのが妥当だが、波多野文香のビジョンを見る限り、蛍のお腹の子の父親が、志田大樹だと『勘違い』した、妹の愛瑠にも蛍を殺す動機がある。

ビジョンで、波多野は、愛瑠の事をブラコンだと呼んでいた位だ。

千夏と蛍のように、兄妹というだけでは、表せられない、深い愛情で繋がっていたとしたら?

「志田大樹か……」

花灯は、その名を口に吐き、奥歯を噛み締める。

その名前を呼べば、あの出来事が昨日のことのように蘇り、脳みそから、電気を通されたように全身に憎悪が爪先までほとばしる。 


『……花灯……ごめんなさい』


蛍の声が、蛍の涙が、花灯を突き動かす。

永遠に、解けない呪縛のように、心にこびりついたまま、漆黒に染まっていく。