「いい飲みっぷりすね」

男の胸元に、お愛想程度にぶら下がっているネームプレートには、『YOU』と記載がされている。

そして、男は、千夏が、オーダーを入れるより先に、またグラスにウイスキーを注いでいく。

(YOU、ね……)

その意味は、勿論『あなた』の意味ではない。

男の名前の前半部分だ。正確には、『YOU(ヨウ)』だ。

カランと氷のなる音と共にカウンターに置かれたグラスを受け取りながら、千夏はグイと男に顔を寄せた。

「『雪』、いつ降るのかな?」

一瞬、男の顔が僅かに引き攣る。

「……さぁ、いつでしょうか。『どなた』と見に行かれるんですか?」

千夏は、ふっと笑った。

(意外と慎重なんだな……)

先程、言葉に吐いたのは、この真夏に勿論天気の事ではない。

雪、すなわち、スノーは、隠語だ。


ーーーーコカインの。


男は、多少緊張しているのか、手元のグラスに千夏が飲んでいるロックを注ぎ、喉を鳴らした。