「滋賀県山中で一台の乗用車が発見…………
死亡していたのは…………さん……車内からは練炭が発見されて…………自殺と……」

男は、朝からやかましく騒ぎ立てるアナウンサーの声に、眉を顰めながら、リモコンでテレビを、消した。

人は見てはいけないモノ、隠しておきたいモノほど、どこかで、それを暴きたい気持ちが強くなる愚かな生き物だ。

ーーーーそれが愛する人ならば尚更。

先週、此処を訪れたお客様は、無事に欲の遂行を、終えたらしい。

「見ちゃいけないもんは、やっぱ、見るべきじゃないと、俺は、おもうけどな」

誰もいない部屋の中で、男は、自嘲気味に笑った。

そして、真っ暗なテレビの画面を見ながら、小さくため息を吐く。

「ふっ……ほんと愚かだよなぁ、人間ってさ」

中庭にある一本のクスノキの根本には、昨日まで五月蝿(うるさ)く叫ぶように鳴いていた蝉が、一匹転がっていた。

男は、唇を薄く開いて、中庭に降り立つと、ゆっくりと、その蝉の死骸を踏み潰した。