あまりにも自然な登場に、反応が鈍ってしまう。
人型の強いあやかしは美貌に優れているのも特徴の一つだけど、それよりもこの人の纏う妖力は凄まじい。
おそらく彼は、高位のあやかしだ。
そんな人に私が陰陽師だとバレてしまうなんて、この状況はかなりまずい。
「あ、の……」
じっと強く見つめる。
どう言おうか、どう誤魔化そうか、頭をフル回転させていた。
「……っと、まずい。ああ、しまった。つい興味が注がれて」
何か言おうとしたところで、同じく目の前の人も口を開く。
ついさきほどの飄々とした表情から打って変わり、その宝石のような黄金の瞳には焦りと煩わしそうな感情が浮かんでいた。
ふっとその人が顔を背けた瞬間、私は行動に出た。
「……お願いします、私のことは秘密にしてください!」
地面に膝と手、そして額をぴったりとつける。
ほぼ土下座のような姿勢で頭を下げ、私は強く懇願した。
おじいちゃんが教えてくれた。
陰陽師はあやかしを退ける術を数多く操っていたけれど、中には術を跳ね除けてしまうあやかしもいたって。
それは下の者を束ねていたという高位のあやかしであり、昔の陰陽師も手を焼いていたという。
私の結界をものともしないで中に入って来られたのは、私の呪力以上にこの人の妖力が強いから。
それがわかれば、もうこうして頼み込むしか方法がない。
力づくて忘れさせてやる……なんて漫画みたいな展開、私には無理!
「……いや、ちょっと待って。君、俺を見てなんともなかったのか?」
より一層におでこを地面にのめり込ませていると、そんな質問が聞こえてきた。
なんとも思わないって、どういうことだろう。
今まさに肝を冷やしているんだけれど。
ここは正直に答えよう。
「自分のことがバレてしまいとても焦っています! どうかどうか誰にも言わないでいただけませんでしょうか……!」
「そういうことじゃなくて。ちょっと君、もう一度こっちを見てくれないか。ほら、おでこが土で汚れるから」
「あの……?」
促されて顔をあげると、彼は苦笑を浮かべていた。
「俺のこと、どう思う?」
「どう……」
「もっと切り込んで聞くと、俺のことかっこいいと感じる?」
「……え、はあ、まあ。美形な人だとは思っていましたけど」
どうしてこんな問答をしているのか疑問だったけれど、彼は至って真面目だった。
「自分のものにしたいと、強く思う?」
「ええ……」
さすがにちょっと、いや結構引いてしまった。
これまで高位のあやかしと関わったことはないけれど、みんなこんな感じなのかな。
「ごめんなさい、ないです……」
よくわからないけれど素直に答えれば、彼はその瞳を大きく開いて、そして微笑んだ。
「なんて、ことだろう」
その笑みは、まるで焦がれ続けた人に向けるような蕩けるほど甘く艶やかで。
思わず心臓がどきりと鳴ったのを、私は平常心でそっと静めた。