水を被ったのが放課後で助かった。
濡れた状態では電車にもバスにも乗れないので、しばらく学園内を歩くことにした。
芝生が広がる敷地内の庭を歩く。
部活動をする生徒も多く、至るところから声が聞こえてきた。
「あれ? ここ、どこだろう」
人目を避けるように歩いていれば、来たことがない場所に出ていた。
だけど、周りが木に囲まれているし、ちょうどいい。
「結界」
周りを確認したあとで、手印を結んで結界を張る。
結界の外から私の姿は見えない。
私は芝生に腰をおろすと、コンとポンを呼び出した。
『喚んだ、イト』
『わあ、なんで濡れてるの……?』
「ちょっとね」
ぽたぽたと水滴が毛先から落ちる。
コンとポンは心配そうに私の頬にすり寄った。
『イト、あったかい?』
『イト、ポンたち大きくなる?』
「うん、温かい。ポン、大丈夫だよ。ありがとう」
でも、このままだと風邪を引いてしまうかもしれない。
結界を張っているから、火の術を使っても大丈夫かな。
そう考えながら新たに手印を結ぼうとしたとき、頭上から声が降ってきた。
「それ、式神? さっきの手印にも覚えがあったな。へえ――君、陰陽師なんだ」
「えっ……」
今まで感じなかった気配が、突然に現れる。
そして結界の中に、誰かが入ってきた。
「こんにちは、一年生かな」
すとん、と重力をなくしたようにその人は身軽に私の目の前に立った。
藍色がかった黒髪が風に靡いて、前髪の隙間から黄金の涼しげな瞳がきらりと輝く。
「あの……」
今まで見たこともないほどに、綺麗な人だった。
人妖学園の制服を着ているけれど、この人が袖を通しているだけでなんだか特別な装いに見えてしまう。
見惚れるほど美しい人って、こういうことを言うんだろうな。そう思ったところで、ふと我に返る。
――君、陰陽師なんだ。
さきほど言われた言葉が頭で繰り返される。
途端にさあっと血の気が引くような感覚がした。
「その毛玉たち、強い妖力を感じるけど。上級の妖怪かな」
「…………」
……バレた!?