「またお姉ちゃんがあたしのアクセサリーを盗んだの! どうして亜美の嫌がることばかりするのっ?」


 大好きだったおじいちゃんが亡くなり――私、西ノ宮 (にしのみや) 依十羽(いとは)は、今年から高校生になる。

 そして今日も妹に濡れ衣を着せられていた。


「私……取ってないよ。亜美の部屋に入ったこともないのに」

 広い邸宅の食堂には、朝食を摂るお父さんとお義母さん、そして壁に控えた使用人がいる。

 私は無実を伝えるけれど、誰も信じていないようで冷めた瞳をこちらに向けていた。


「またお前は、いい加減にしないか」

「だから嫌なのよ、薄汚い泥棒猫のような真似をする子なんて」


 特にお義母さんの視線はとてつもなく鋭い。嫌われているので仕方がないと思いつつも、怖いものは怖いのだ。


「あたし、知ってるんだよ? お姉ちゃんがあのネックレスを羨ましそうに見てたの……言ってくれたら、あげたのに」

「羨ましいなんて思ってないよ」

 あんなにゴテゴテとした宝石だらけのネックレス、欲しいだなんて思っていない。
 イタズラ好きのあやかしに狙われそうだなぁとは、考えたけれど。

 だけど今回は、イタズラとは違うみたい。


「嘘ばっかり……! もう、いい加減にしてっ」

 亜美に強く押されて、私はその場に勢いよく尻もちを着いた。

 顔をあげると、俯いた亜美がにやっと笑ったところを目撃してしまう。

 周りが気づいていないのをいいことに、お得意の嘘泣きを始めてしまった。


「…… 依十羽、お前はしばらく部屋を出るな」

「どうして、私はなにもっ」

「人に迷惑ばかりかけておいて、悪びれもなくなにを言っているんだ!! これ以上、何かしでかしたら今度こそただじゃおかないからな!!」


 聞く耳を持たず、お父さんは席を立つと食堂を出ていってしまう。

 私は何もしていないのに。
 けれど、このやるせなさは慣れっこだった。

 だって私は、この家に来てからというもの、一度だって話を聞いてもらったことがない。


 私はこの屋敷の使用人として働いていたお母さんと、手を出したお父さんとの間にできた子ども。
 お腹に私がいると知ったお母さんは、屋敷を出たあとに出産し、その後はおじいちゃんの家で一緒に暮らしていた。

 三歳の頃、お母さんは交通事故に遭い亡くなり、私が中学に上がる頃にはおじいちゃんも病気でこの世を去った。

 そのあと、私の存在を知ってお父さんがこの西ノ宮家に迎えたのだけれど。
 もちろん歓迎されるはずもなく、お義母さんと亜美は私を心底疎んでいる。

 それは、確かに仕方がないとも思う。
 だったら私のことは無視してくれていいのに、存在が気に入らないのかいびり続けてくる。


「……はあ」

 食堂をあとにした私は、屋敷の一階の隅にある物置部屋に入った。

 ここが私の部屋で、長いこと過ごしてきた場所。

 物置部屋といっても、この広い屋敷の物置なのでそれなりに大きい。
 けれどある物といえばベッド、机、椅子、クローゼットくらいで、私物はほとんどなかった。


「…………んもおおっ! やることがワンパターンなんだから!!」


 物置部屋に人が来ることはまずない。

 それをいいことに私は溜まりに溜まった鬱憤を声に出すことで発散していた。