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「ずびっ」
泣き過ぎたせいで、頭も鼻も痛い。
目元もひりりと熱を帯びている。
「あの、すみません。胸を貸してくれ……て……!?」
ようやく落ち着いてきたので胸から顔を離そうと身じろぐ。
しかし、天王先輩のシャツやブレザーが私の涙で汚れているのに気づき再び顔をくっつける。
まずい、まずい。
なんかめちゃくちゃ汚い。涙だけじゃない、もうなんか……汚い!
「イトちゃん、どうかした?」
あ、イトちゃん呼びに戻っている。
それが少し寂しくもあって、だけどすごく照れくさい。
「って、そうじゃない!」
「イトちゃん?」
「せ、先輩……ごめんなさい。私、その、制服をありえないくらい汚してしまって」
「こんなの、気にしないよ。そもそも、君の涙は汚れてなんかいないから」
「いや、涙だけじゃないですから!」
新手のナンパみたいな台詞に小っ恥ずかしくなる。私の顔は夕立に打たれたあとのように大惨事なのに、いつだって天王先輩は爽やかだ。
どうしようどうしようと焦って天王先輩にくっついていると、なにを思ったのか彼は腰に腕を回してくる。
泣いているときはそれどころじゃなかったけれど、正気に戻った今は密着しすぎて体中の血液が沸騰しそうなくらい熱い。
「なら、もう少しこうしていよう。役得だなー」
頭上から呑気な声が聞こえ、私の心臓はさらに強く鼓動を刻んでいた。