まったく状況を呑み込めないまま、私は天王先輩と食事をとることになった。
あきらかに量が多いのでコンとポンを喚び、そして小鬼ちゃんも一緒になってレジャーシートに座る。
「これ、天王先輩が準備したんですか?」
「そうだけど、なにか変なところでもあった?」
「いえ、なんだか……すごいなって」
語彙力のない感想を言ってしまった。
けれど、学園でもよく名があがり、最高位のあやかしと恐れられている彼が、レジャーシートを敷いて待っているなんて。
想像がつかないというか、意外だ。
「さあ、どうぞ」
重箱は三段になっていて、主食、主菜に副菜、そして下段がデザートとなっていた。
取り分けられた皿を渡された私は、おずおずと一口、キッシュを食べる。
「……美味しい!」
自然に出た言葉に、天王先輩はふっと笑った。
「よかった。口にあったようで」
『シキちゃまのごはん、おいしいおに!』
下から小鬼の声が聞こえてきて、私は思わず天王先輩を凝視する。
「こ、これ……天王先輩が作ったんですか!?」
「ああ、そうだよ。君が気に入ってくれたなら、嬉しいな」
「は、はい……本当に、すごく……美味しいです」
それに、なんだかあたたかい。
単に温度の話じゃなくて、食べるとほわっと心が温まるような、不思議な心地になった。
「昨日はあれからすぐに帰っただろう? だから、もう少し君と話したかったんだ」
自分が食べることも忘れて、お弁当を食べる私を見て満足そうにする天王先輩は、なんだか少しはしゃいでいるように見えた。
一見するとその美貌で近寄りがたいような、後ずさりしたくなる雰囲気があるのに、そのアンバランスさが変な感じである。
お弁当はコンとポンも味が気に入ったようで、おかわりをお願いしている。
それを快く受け入れる天王先輩の姿に、私が抱いていた最高位のあやかしのイメージが塗り替えられていく。
「天王先輩は、どうして私と話をしたいと? 正直、私は陰陽師の血筋なのであやかしの人からしてみれば悪い印象しかないと思いますし……」
「陰陽師としてじゃなくてね。俺を対等に見てくれる君と、話がしたかった」
「私が、対等……ですか?」
「君が横にいると、息苦しくなるどころか気分が晴れていく。変な感じだけど、不思議と心地がいい」
天王先輩が言っていた、妖力によって故意ではなく周りを魅了してしまうということ。
私には理解できない部分もあるけれど、意味もなく嫉妬や欲望を向けられたら、きっと息が詰まるだろう。
「食事のついでに、イトちゃんのことも教えてくれないかな」
「私のことですか?」
「なんでもいい。君が話すことなら、なんでも聞きたい」
またしても直球な発言に、うっとする。
それでも天王先輩は楽しそうに笑うので、私は徐々に肩の力を抜いていった。
なにか裏があるんじゃないかとも考えたけれど、彼は本当に話したいだけみたい。
それに私も、こんなふうに話せる相手はコンとポンだけだったので、思ったよりずっと楽しい時間を過ごせていた。