天王先輩とおかしな出会いをした次の日。
『おにー!』
昼休み前の眠気に襲われ、なんとなく窓に目を向けた私は、赤い小鬼と目が合った。
小さな角を頭に生やした小鬼。
種類でいうと人外超小型妖怪に分けられ、大きさはコンやポンと同じくらい。
授業中にも関わらず驚いて声をあげそうになる。
まさか、窓にぺったりと必死な顔をした小鬼が張り付いているとは思わないもの。
これぐらいの小鬼は草むらなどでも見かけたことがある。
けれど、この小鬼は他の人には見えないようになっているらしく、誰も存在に気づいていなかった。
幸いそのあとすぐに授業が終わり昼休みになり、私は窓を開けて小鬼を手のひらに載せる。
『シキちゃまが、呼んでるおに!』
おに、おに、と。
言葉を話さないタイプの小鬼しか見たことがなかったので、そう言われてさらに仰天する。
どうやらこの小鬼は天王先輩の遣いで、彼は昨日の場所で待っているという。
相手は最高位のあやかし。
あんまり近づきたくはないけれど、無視もできない。
何より陰陽師であることを黙ってもらっているので、なんとなく断りにくい部分があった。
『シキちゃま、まってるおに!』
「あっ、ちょっと待って……っ」
すばしっこく教室の外を駆けていく小鬼を追いかける。
教室に残っていたクラスメイトから怪訝な顔をされながら、私は昨日の場所へ急いだ。
『おに、おに!』
「ちょ、ちょっと……あんまり早く走らないで……」
小鬼の体力、底知れず。
すでにバテながら木々の間をすり抜けて、拓けた場所に出る。昨日、天王先輩とあった場所だ。
なぜかその芝生の上には、レジャーシートを広げた天王先輩が待っていた。
「イトちゃん。急な呼び出しに来てくれてどうもありがとう」
私が現れると、天王先輩は近寄ってくる。
ちなみに先に走っていった小鬼は、先輩の肩で役目を果たしたと言わんばかりにくつろいでいた。
「なにか、急用ですか?」
「いや、そういうわけではないんだけど」
すると、天王先輩は私と目を合わせてにっこりと笑う。
「君と、食事をしてみたくて」
ふと、レジャーシートに目を向けると、そこには豪奢な金箔があしらわれた黒い重箱が置かれていた。