この美しい男のひとが、私が昨日助けた小さな蛇……?

 信じられない気持ちもあったけど、でも。

 人間離れしたその美しい容姿が、彼がひとならざるものであることを物語っていた。
 そして、彼の指先には、私が巻いてあげた白い布があって。

 目の前で現実に起きていることを、受け入れるしかないようだった。
 すがたかたちを変えるあやかしも、たまにいるという……。
 彼も、そういう存在だったのだろう。

 私が落ち着いた後、私は布団の上で正座して、彼は部屋の隅で片膝を立てて抱えて座って、近くはない、でも遠くはない距離感で話をした。

 こうして見ると、意外と若い……のかもしれない。
 人間離れした美貌で、わかりづらいけど……。
 低い声に対して、身体は華奢で、少年らしささえ少し残しているようだった。
 私と同じくらいか……少し上の歳なのかな?

 彼はしばらくのあいだ私をじっと凝視していた。
 あんまりにも穴が開くように見てくるから、恥ずかしくなってきたとき……。

「俺のことは、(べに)と呼んでくれ」
「紅……さま?」
「さま、はむず痒い。紅でいい」
「でも……」

 私は、だれに対しても敬語を使うことを義務づけられている。
 そのなかには当然、ひとに対して基本は「さま」を付けて、下働きのひとたちに対しても最低限「さん」をつけることも含まれている。
 あやはあの性格だから、呼び捨てにしてくださいましと言ってくれて、私もずっとそうしているけど。
 だから私にとっては、簡単に「さま」づけしないのは難しい……。

 そういう気持ちを込めて、私は言う。

「その……私には難しいことです」
「そ、そうか……いきなりは……そうだよな……」

 だけど、彼はなにかすごく落ち込んでいるようだった。

「もう少し親密になる過程を経ないと、か」

 どういう意味かしら……?