「それでは……ごめんなさい、硯さま」

 ごめんなさい、ごめんなさいと何度か繰り返しながら。
 あやは私の目の前で、格子の扉を閉めて、鍵をかけた。

 がちゃん。
 冷たい音がひびくけど、これもあやのせいではない。あやは、悪くない。

 あやの持つ鍵は、束になっている。
 この村で女中の仕事をしており、腕もよくて信用されているあやは、たくさんの鍵を持ち歩いている。
 そのうちひとつくらい、小屋の鍵があっても気づかれないだろう――ということだ。

 でも、それが相当危ない橋だと、私はもちろん知っている。
 だから、あやには感謝しかない……。

 私は座敷牢の、閉じ込められる座敷のがわで、あやに笑顔を向けた。

「では、よろしくお願いします。ありがとうございます」
「すぐ戻ってきます、硯さま……」

 あやは、格子のもうひとつ向こう、小屋自体の入り口の扉にも外から鍵をかけて、出ていく。
 ぱたぱたぱた、と彼女の草履が地面を踏む音……。

 あやは、私の唯一の支えと言っても過言ではない。
 あやの一家は、まだあやが幼いころに借金が理由で家族ごと、私の生家――蓮池(はすいけ)家に買われ、奉公している。あやも、蓮池家で女中として働いている。どうやら(みやこ)から来たらしく、借金を一刻でも早く返して京に戻るのが目標なんだそうだ。

 そんなあやは、驚くべきことに。生まれた瞬間から忌み子であり、生贄が必要となったときに捧げられるだけの私を「蓮池家のお嬢さま」として扱ってくれて、ずっとそばで仕えてくれている。
 とてもいい子なのだ。

 ただし、ひっそりと。村の人間たちに、けっしてばれてはいけない。
 忌み子と親しくしてはいけないのだから。

 とりわけ、妹――私とは違いだれもが「蓮池家のお嬢さま」と認める清に見つかってしまったら、あやは、どんな残酷な目に遭ってしまうだろうか。

 私は、だから、あやに来るなって言うべきなのに。
 ひとりぼっちでさみしくて……どうしても、そうすることができないでいた。