「べ、紅……」
「こうして抱き上げるのが癖になってしまいそうだ」
「そ、そんな……」

 ……私も、こうやって抱き上げられるの、まんざらではないけど……。
 なんだか、照れちゃって。ふわふわしちゃって。……しあわせだ。

「紅さまっ!」

 歩き出した紅の背中に、水淵村の村長から声がかかる。

「これにて今回のことは……不問にしていただけるでしょうか……」
「けがらわしい。俺の呼び名をその口で呼ぶな。……大蛇の君の花嫁を虐げ続けた不名誉な村として、この村の名は残るだろう」

 そんな、と崩れ落ちる村長や村人たちが、とても、とても小さく見えた。

 紅は、私を大事に抱きかかえたまま、馬車に乗るために歩き出す。
 風が吹く。澄んだ風が。……昨日と同じはずなのに、まったく違ったように感じる、新鮮な風が。
 まるで私たちを祝福してくれているかのように――。

「硯。愛している。硯。大好きだ。俺が初めて愛した相手が、硯で、本当によかった。……幸せになろう。ずっとずっと、いっしょにいよう。これまでのぶんも、俺がいっぱい幸せにしてやりたい」
「はい、私も」

 紅の愛おしさに、私の笑顔は、本心から弾けた。

「紅と、幸せになりたいです」

 実はもう……その願いは、かなえられてしまっているのだけれども。