紅は清の攻撃を軽くかわし、私をひらりと背中に下ろしてかばうと、赤子の手をひねるように地面に打ち付けた。

「ふざけるな。俺の愛する硯を傷つけようとする奴は、この俺が絶対に許さない」
「紅兄さまの婚約者に手を出すなんてね。大罪人だ。捕まえてくれ」

 おつきの人々が一斉に清を捕らえる。

「離して、離してよっ。硯を殺してやる! 幸せになる前に!」
「硯。大丈夫か?」

 紅はすっかり呆れていたようだったが、私に向かっては本当に案じる目をして、気遣うように尋ねてくれる。

「どうする、硯。この村を根絶やしにしたほうがすっきりするなら、そうするが」

 次期村長やその妻、私を蔑んでいた村人たちが、ひっと喉元をひきつらせるのがわかった。

 ……正直なところ。
 恨む気持ちがないと言えば、嘘になる。
 このひとたちにされてきたことを思えば……。

 でも……。

「大丈夫です。どんな理由があろうとも、他人を傷つけたくはないから」

 私も、忌み子っていう、この村ではあきらかに正当な理由があったって……やっぱり、傷つけられたくは、なかったのだから。

「そうか。硯は……優しいな」
「ありがとう、わが愛娘、硯!」
「ありがとうありがとう、やっぱりあなたは自慢の娘よ!」

 急に私を拝み始める次期村長とその妻を、紅はぎろりと睨む。

「調子に乗るな。……硯、この村を滅ぼしたくなったら、俺がいつでも滅ぼすからな。いつでも言うがよい」
「す、硯、そうだ結婚祝いをやらねばな。なにがいい? 村にあるものならなんでも持っていきなさい」
「そ、そうね、母さまが持ってる指輪なんかどう? 宝石もあるわよ」
「……こんな村にあるような物はたかが知れてると思うけどね」

 帝もさすがに呆れたようで、ぼそりとつぶやくようにそう言った。

「物は何も要りません。でも……」

 私は、ひざまずく村人たちのなか――私から少し離れたところにいるあやと、そのもっと後ろにいるあやの一家を、見た。

「あや。そして、あやのご家族のみなさま。……顔を上げてくれませんか」

 あやと、あやの家族は、そうしてくれたのだけれど――顔を上げたあやは、だくだく泣いていた。