私が蛇を手のひらに載せて小屋に戻ると、あやは悲鳴じみた声をあげた。

「す、す、硯さま。そ、そ、そ、それは……」

 蛇、と口に出すこともできないのだろう。忌み嫌われた存在の名前だから。
 しかたのないことだ。だから、私は代わりに口にする。

「蛇です。外の森の近くで倒れていたので、拾ってきました」
「お、お口が穢れますよ。そのう、そのようなことをおっしゃっては……」

 私は思わずふふっと笑った。
 あやは、真面目だ。むかしから真面目な子だったが、先日十三歳の成人の儀を終え、ますます真面目に拍車がかかったような気がする。
 もうあたしも大人ですからしっかりします、と鼻息を荒くしていたあやは、しかし、私にとっては今も昔も可愛い妹のような存在だ。

「大丈夫ですよ。私はこれ以上穢れようもありませんから……それより」

 私は部屋の奥の座敷に正座をする。蛇は、相変わらずぐったりしている。

「早く助けてあげないと」

 思わず、思っていることが声に出る。

「あや。ここに、なにか手当をするようなものはありましたっけ?」
「え、ええと。この小屋には……そっか……ないですね……」

 あやは気まずそうな、そして、悲しそうな顔をする。
 私は申し訳ない気持ちになる。
 あやが、そんな顔することないのに。
 けっして、あやが、悪いわけじゃないのに。
 私はもう、死んでいるも同然と扱われているから、いのちを助けるための道具が小屋に置いてないだけ。

「申し訳ないのですが、なにか手当をするものを取ってきてもらってもいいですか? 小さな蛇に使うだけなので、ちょっとしたものでいいですよ……ただし無理はしないでくださいね。怪しまれたら、そのまま仕事に戻ってもらってかまいませんので」
「わ、わかりました……」

 あやが手当をするものを持ってくることが叶わなければ、小屋にあるもので手当をするしかない。
 ほとんど、何の物もない小屋。どこまでできるかわからないが……あやの命と、引き換えにするわけにはいかなかった。

 私のところに通っていることがわかれば、あやは、あっけなく殺されてしまうだろう。