現当主は、眉をひそめる。

「申し訳ありません、まもり神さま。もう少々、説明していただいてよろしいですかな?」

 まもり神さまは、さきほど座敷牢で起こったことを説明した。
 自分は本当は下級の化け狐であるとも言っていた。
 早口でまくし立てていたけれど、その話の意味は村人に通じていたようだった。

 話を聞き終えたとき、現当主の顔は真っ青になっていた。

「……それでは……まもり神さまは、村のまもり神ではなく……ただの狐で……我々を、騙していたと……?」
「うそよ、そんなの、悪い冗談よね。……ねっ?」

 清の言葉に応えず、まもり神さまはまたしても土下座した――村人たちにではなく、紅に向かって。

「お見逃しください。ほんの出来心だったのです。この村の人間たちなどどうなってもいいですから」
「私は? 私は、どうなるの?」
「うるさい、うるさい、うるさい! おまえなど利用しただけだ。御しやすそうだったからな――!」

 まもり神さま……いや、化け狐は土下座したまま叫ぶ。
 清の顔は歪み、真っ赤になる。

「……まったく騒々しい。話はそれですべてか、狐?」
「はい、それはもう」
「では改めて問う。硯を、生贄として捧げようと決めたのは、おまえたちか――?」

 そのとき。
 遠くから……馬車で大人数がやってくる音が、聞こえてきた。