「わ、わたしは……」

 まもり神さまは、がたがたと震えだした。

「ねえ、まもり神さま、どういうことなんですか? まもり神さまは、神さまなんですよね。この村をずっと守っていってくださるんですよね?」

 清がまもり神さまの腕を取って、すがりつく。
 しかしまもり神さまは、清の腕を乱暴に振り払った。

「うるさい。いまそれどころじゃないんだ」

 清は呆然としていた。
 乱暴を受けたことなんて……人生で、初めてだったのかもしれない。

 そしてまもり神さまは、目にも留まらぬ速さで、あっというまに――その場に土下座した。

「わたくしめは、名もなきしがない化け狐ですっ。ちょっとした出来心で。このように寂れた農村であれば騙せると思い、まもり神を騙り、この村のやつらを騙していたのです」
「他には何かしたか」
「蛇が穢れたものだと教えたのもわたくしです。自分よりも上位の御方の力をおそれ、危険となりうる存在はすべて穢らわしいと教えたのです。蛇の御方は力が強いですから。悪いことをいたしました。申し訳ありません、申し訳ありません、お許しくださいまし」
「それは別にいい。他に――何かしなかったか? 硯に対してひどいことをしなかったか?」

 清が急にはっと我に返ったかのように、まもり神さまの腕に無理やりすがりつく。

「ちょ、ちょっとなにしてるんですか、まもり神さま! こんな、不届き者の男に、なんで謝ってるんですか?」
「口を慎めえ! この御方は、絶大な力を持たれる大蛇の君さまだ!」
「な、なにをおっしゃっているの……? ねえみんな来て、大変、大変なの! 人を呼んで!」

 そして、村じゅうを巻き込んで、大きな騒ぎになる。
 紅は、深くため息を吐いていた。

 村人たちは集まってくるけれど、私の座敷牢にはとてもそんな大人数は入らない。
 加えて、座敷牢に集まるのは縁起が悪いということで――私は特別に座敷牢からの外出を許可され、紅とあやとともに、村人たちのいる広場へ向かうことになった。