紅さまは気まずそうに、視線を逸らした。

「……いや。その。すまない。また、怖がらせてしまったか? ……人間とかかわるのはやはり難しい」
「いえ、大丈夫です」

 私は思わず、くすくす笑った。

「……ありがとうございます。私、いつも、要らないって言われてばっかりなので。たとえお世辞でも、そう言ってもらえるのは、とっても嬉しいです」
「いや。……世辞などではなくてだな」

 紅さまは、きっとすごくいいひとなのだろう。
 一見ぶっきらぼうだけど、ひとは見かけによらないし。

 あやかしなのに。こんなに美しくて、人間離れしているのに。
 ちょっと人生で行き会っただけの私に情けをかけてくれるのだから……。

 まだ出会って間もないのに、このひとといるのは、痛くない。
 それどころか、もっといっしょにいたくなる。
 私の話を聞いてくれて、私のそばにいてくれるひとなんて。……奇跡だ。

 ……だから。
 そろそろだと、思った。

 これ以上いっしょにいてしまっては……もっと、いっしょにいたくなるから。

「……紅さま。お怪我の具合は、いかがですか?」
「ん? ああ。もうすっかり良くなった」

 紅さまは腕の包帯をほどいて、傷跡を見せてくれた。
 たしかに、傷はすっかりよくなっているようだった。少しだけ痕が残ってしまっているけれど、もう治りかけ。
 私の傷の治りよりずっと速いように感じた。常人離れしている。やっぱり、あやかしだからだろうか。

「他の傷もこのような感じだ。手当のおかげだ。感謝する」
「よかったです」

 本当に、ほっとした。
 あやかしだったことには、びっくりしたけれど……。
 小さな蛇。あのままだと、死んでしまいそうだった。……死んでほしくなかった、助かってほしかった。
 だから……よかった。本当に。

 私は、笑顔が歪まないように気をつけながら、紅さまに言う。

「もし、もう体調のほうがすっかりよろしければ……ゆかれたほうが、よろしいかと」
「……え?」
「ここは忌み子の座敷牢。たいしたおもてなしもできません。窮屈な場所です。……村人に見つかれば、清やまもり神さまにどんな目に遭わされるかもわかりません。まだ、気づかれてはいないはずですから……ゆかれるのなら、いまです」

 これ以上、名残惜しくなる前に。
 もっといっしょにいたいと願い始める前に……。