でも、手当の道具については気になることがひとつだけ。
 私は、紅さまに尋ねる。

「本当に、お怪我は大丈夫なのですか? 手当の必要があれば……」
「もうすっかり大丈夫だ」
「そうですか。でも……あとで念のためにもう一度、傷を見せてくださいね。あや、すみませんけど、この方にまだお怪我があるようでしたら、後ほど手当の道具をもう一度お借りしてもいいですか」
「はい、もちろんです」

 私はそんなやりとりをしながら、あやに手当の道具を返した。

「それと……そのう……清さまがいらっしゃるあいだ、そちらのお方は……」
「どうすればいいんだ?」

 紅さまは、あやではなく私を見て困ったように言った。
 途方に暮れたような顔がちょっと可愛く思えてしまって、私はふふっと笑う。

「蛇のすがたに戻ることはできますか」
「そうした方が、貴女にとって助かるんだな」
「そうですね。そうしていただけると助かります。そして出てこないように」
「わかった。……蛇に戻るところは見られたくないから、ちょっと外に出て、姿を変えて、戻ってくる」

 彼は、あやの開けている扉から外に出ていった。

「あや、ありがとうございました。もう戻ったほうがいいですね。私のもとにいることが知られたら、大変なことになりますから」
「……硯さま……あたし、申し訳ありません、硯さまがいちばんつらいときにいつも、ご一緒できず」
「そんなのはよいのです。あやのせいではありません。ほら、早く戻ってください。私なら、大丈夫ですから」

 ごめんなさい、ごめんなさいと泣きそうな繰り返しながら、あやは座敷牢の鍵を二重に閉めて、駆け足で村へ戻っていった。

 ……あやが謝ることでは、ないのに。

 音でわかる。
 あやと清たちは、鉢合わせしなかったようだ……よかった。

 だったら、私、今回も耐えられる。

 しゃなりしゃなりと、鈴のふれあう音がする。
 清が、守り主さまとともに――忌み山を、のぼってきている音だ。