ばたばた、と急ぐような足音。
私は一気に緊張する。……だれか、村人が来る?
とんとん、と小さく二回扉を叩いた後、どん、どんどん、と弾みをつけて大きく、三回。
この叩き方は、あやだ。
あやだったのはよかったけど、いま、座敷牢には――。
「あやです。硯さま。突然申し訳ありません」
「あっ、えっと、あや。いま少し取り込んでおりまして」
私の言葉は間に合わなかった。
あやは、座敷牢の扉を開けて、中に入ってきた。
きゃっ、とあやが声を出す。
「そ、そ、そ、その方は……え、え、ええと……?」
完全に混乱しているあやに、私は簡潔に説明した。
昨夜助けた蛇だと。
人間のすがたになって、いまここにいるのだと。
紅……さまは、無口に腕を組んでいたが、私の説明には相槌を打ってくれた。
「私の故郷でも、ひとのすがたをとるあやかしの方はいらっしゃいました。そういう方だったですね」
あやは、どうしてだろうか、なんとなく嬉しそうだったけど。
「すみません……あやかしさま、改めてまたゆっくりご挨拶させてください。硯さま。これから清さまがこちらにいらっしゃいます。それを、お伝えしようと思って……」
「――あの子が? また、こんなに早くに?」
清は、むかしからちょくちょく私の座敷牢にやってくる。
あやとはまったく違う目的で。
「はい……今朝も、村長さまと硯さまの言い争いになりまして。まもり神さまは硯さまのお味方をされたのですが……村長さまは、今朝はなかなか退かれず……」
「……それですっきりしないから、私のところに来るのですね」
私は、思わずため息をついた。
清は、なにか嫌なことがあったり疲れが溜まると、私のもとに来る。
八つ当たりに来るのだ。
「ありがとうございます、あや。いつも事前に伝えてくれて」
心の準備ができるだけで、どんなに助かっているだろうか。
「それは、いいんです、全然。えっと、硯さま、それと……手当の道具を念のためお戻しいただいたほうがいいかと思います」
「そうですね。万一でも清に見つかったら、あの子はうるさいですから」
私はこれから来るであろうつらい時を少しでも和らげようと、冗談めかした言い方をしてちょっと微笑む。
……これも、強がりだって、本当は心のどこかでわかっているけれど。
私は一気に緊張する。……だれか、村人が来る?
とんとん、と小さく二回扉を叩いた後、どん、どんどん、と弾みをつけて大きく、三回。
この叩き方は、あやだ。
あやだったのはよかったけど、いま、座敷牢には――。
「あやです。硯さま。突然申し訳ありません」
「あっ、えっと、あや。いま少し取り込んでおりまして」
私の言葉は間に合わなかった。
あやは、座敷牢の扉を開けて、中に入ってきた。
きゃっ、とあやが声を出す。
「そ、そ、そ、その方は……え、え、ええと……?」
完全に混乱しているあやに、私は簡潔に説明した。
昨夜助けた蛇だと。
人間のすがたになって、いまここにいるのだと。
紅……さまは、無口に腕を組んでいたが、私の説明には相槌を打ってくれた。
「私の故郷でも、ひとのすがたをとるあやかしの方はいらっしゃいました。そういう方だったですね」
あやは、どうしてだろうか、なんとなく嬉しそうだったけど。
「すみません……あやかしさま、改めてまたゆっくりご挨拶させてください。硯さま。これから清さまがこちらにいらっしゃいます。それを、お伝えしようと思って……」
「――あの子が? また、こんなに早くに?」
清は、むかしからちょくちょく私の座敷牢にやってくる。
あやとはまったく違う目的で。
「はい……今朝も、村長さまと硯さまの言い争いになりまして。まもり神さまは硯さまのお味方をされたのですが……村長さまは、今朝はなかなか退かれず……」
「……それですっきりしないから、私のところに来るのですね」
私は、思わずため息をついた。
清は、なにか嫌なことがあったり疲れが溜まると、私のもとに来る。
八つ当たりに来るのだ。
「ありがとうございます、あや。いつも事前に伝えてくれて」
心の準備ができるだけで、どんなに助かっているだろうか。
「それは、いいんです、全然。えっと、硯さま、それと……手当の道具を念のためお戻しいただいたほうがいいかと思います」
「そうですね。万一でも清に見つかったら、あの子はうるさいですから」
私はこれから来るであろうつらい時を少しでも和らげようと、冗談めかした言い方をしてちょっと微笑む。
……これも、強がりだって、本当は心のどこかでわかっているけれど。