目の前で、蛇が倒れていた。
 ちいさな、ちいさな、しろい蛇だった。

 森のそば、昨夜の雷雨でぬかるんだ地面で、蛇はぐったりしている。
 行き倒れてしまったのだろうか。
 最近、ますます水害が多いから……その犠牲になってしまったのかもしれない。

 蛇は、忌み嫌われている存在。
 けっして、ふれてはならない存在。
 穢れが移ってしまうから。
 まもり神さまが、そのように教えてくださった。

 村人たちだったら――そう、たとえば私の妹なんかは絶対に、さわらないだろう。
 それどころか、不吉だと言い、いますぐ焼き捨ててしまうのではないか。 

 でも、私はその蛇を見捨てることができなかった。
 きっとこのまま死にゆくいのち。

 この蛇は、私とおなじだと思った。
 みんなから忌み嫌われ、穢れが移るからふれてはならないと言われ、不吉だと言われる。

「私たち、仲間ですね」

 私はしゃがみ込み、手のひらに載るほど小さな蛇を拾って、小屋に戻る。
 手当をする道具……あったかしら……。

 山の木々たちが、風を受けて緑にきらめいている。
 こんな天気だと、裸足に死に装束でも歩きやすい。

 私はいつもこの格好だ。裸足に、真っ白な死に装束。
 なぜなら、私は忌み子だから。

 双子の、姉のほうだったから、捨てられた。
 妹は煌びやかに、お嬢さまとして生きているけど、私はいてはならない者として生きていくことになった。
 忌み子として――村外れの森の座敷牢に閉じ込められて、死んだような人生を、意味もなく生きている。生かされている。

 山の気持ちよさとは対照的に、手のひらにいる蛇はぐったりとして、いまにも死んでしまいそうなのだった。