翌日、休日にも関わらず海殊は街へと出て、下見に来ていた。無論、昨日琴葉と話していたデートの下見というやつだ。
自称〝恋愛マスター〟の祐樹曰く(彼女いない歴=年齢なのは触れてはいけない)、そうした下準備をしておけば、デートを難なく運べて女の子を喜ばせる事ができるらしい。きっと、何かの雑誌か恋愛マニュアルに書いてある事をそのまま送ってきたのだろう。
ただ、どうせやるならやるで琴葉に満足して欲しいし、彼女はしっかりとした意思を以て『海殊とデートがしたい』と伝えてくれたのである。これに答えなくては、男が廃るというものだ。
それに、彼女にもその下見云々のメッセージは読まれてしまっているし、こちらが午前中に下見をする事についても知っている。ここでいざデートの本番で問題が生じれば、それこそ下見をちゃんとしていなかった事がバレてしまうのだ。
メッセージを見られてしまったせいで、逆に下見をしっかりしなくてはいけない状況に陥ってしまっているとも言えなくはない。
(にしても、この街でデートか。自分でも意外過ぎて笑っちゃうな)
海殊は溜め息を吐きながら、スマートフォンで昨日開いたホームページを履歴から開く。昨夜街のデートスポットページを調べていたのだ。
ここは東京の西部では栄えている町で、学生の住みたい街ナンバーワンなのだと言う。それもあってか、カフェやショップなど様々なジャンルの店があって、デートスポットとしても有名なのだそうだ。
海殊からすればほぼ毎日利用している場所なので、デートスポットとして見た事など一度もない。彼の行く場所など本屋かご飯を食べる場所程度だ。
生まれてこの方ずっとこの街で過ごしてきた海殊としては、この町でデートをするという実感もなかった。
(えっと、どういう順番でいけばいいのかな)
スマートフォンのデジタル時計は十時を示していた。待ち合わせは十二時だ。お昼に待ち合わせでお弁当を作ってくると言っていたので、先にご飯を食べられる場所を見ておいた方がいいだろう。
海殊はそう思い立って、駅の南口から公園へと向かって歩く。
この公園は大正六年に造られたもので、遥か昔は江戸の水源として有名な景勝地だったそうだ。園内は池周辺や雑木林のある御殿山、運動施設のある西園、第二公園と四区域に分かれていて、池周辺は低地、御殿山周辺は高台になっている。変化に富んだ景観が楽しめるので、老若男女の人気スポットなのだと言う。
海殊もたまに公園を散歩するが、いつでも人が多いというイメージだった。土日となれば大道芸人や路上ライブミュージシャンなども出て各々の芸を披露していた事を思い出し、確かにデート向きだなと思い至る。
早速その公園を目指して、公園通りを歩いていった。
公園通りでは、コンビニやカフェの他、インテリアグッズ売り場や洋服店などが立ち並ぶ。どうやらデートというのは、こういった場所を一緒に見て楽しむものだそうだ。
(あー……そういえばここのソーセージ、いつも視界に入るけど食べた事ないな)
通りに面したドイツ料理屋を見て、ふと思う。そのドイツ料理屋は店内で食事を楽しむ事ができる他、ソーセージを買い食いできる様に店頭販売も行っているのだ。
(もしお腹に余裕があったら、ここで買い食いしてみるのもいいかもしれない……って、なるほど。これが下見の意味か)
祐樹にしてはやるな、と思いながら、スマホにメモを書いていく。
こうした思いつきを増やす為の下見なのだろう。デートとは大変なものだ。
それから公園をぐるっと回ってものを食べられそうな場所に目安をつけてから、駅の反対側の商店街の方にも回ってみる。こちらの方は本屋や食べ物屋以外にも、ROFTやデパートなども多い。見て回る分には困らないだろう。
見て回るだけでデートとして成り立つのかは不明だが、カップルらしき人達が店を見て回っているので、きっとこういうものなのだ。そこに意味や意義などは必要ないのだろう。
祐樹から送られてきたメッセージによると、自分の好きなものを分かち合えるデートでなければ意味がないらしい。その自分の好きなものを分かち合えれば互いに良い関係を築けるし、それが分かち合ってもらえなければ例え付き合ったとしても長続きしないだろうとの事だ。
これまた祐樹のくせにそれっぽいことを言うものだから、何だか癪だった。
海殊は目をつけていたアンティークショップとブックカフェへと行く。場所と雰囲気を確認していた頃、スマートフォンがぶるぶるっと震えて、メッセージの着信を教えてくれた。メッセージは母・春子からだった。
『琴葉ちゃん、もう待ち合わせ場所にいるわよ。楽しみにしているがいい!』
どうして母親がわざわざメッセージを送ってくるんだと思ったが、そう言えば琴葉はスマートフォンを持っていない。家に置いてきたままだと言うので、彼女の代わりにメッセージを送ったのかもしれない。
後半については意味がわからなかったので、もはや触れようとも思わなかった。
(あ、やっべ。もう待ち合わせの十分前じゃんか)
スマートフォンのデジタル時計を指す時間を見ると、時刻は十一時五十分。真剣に見て回っていたせいで、すっかりと時間を忘れてしまっていたらしい。
(やれやれ、すっかりペースにはまってるな)
海殊は普段と異なる自分の休日に呆れながらも、どこか高揚感を隠せないでいたのだった。
自称〝恋愛マスター〟の祐樹曰く(彼女いない歴=年齢なのは触れてはいけない)、そうした下準備をしておけば、デートを難なく運べて女の子を喜ばせる事ができるらしい。きっと、何かの雑誌か恋愛マニュアルに書いてある事をそのまま送ってきたのだろう。
ただ、どうせやるならやるで琴葉に満足して欲しいし、彼女はしっかりとした意思を以て『海殊とデートがしたい』と伝えてくれたのである。これに答えなくては、男が廃るというものだ。
それに、彼女にもその下見云々のメッセージは読まれてしまっているし、こちらが午前中に下見をする事についても知っている。ここでいざデートの本番で問題が生じれば、それこそ下見をちゃんとしていなかった事がバレてしまうのだ。
メッセージを見られてしまったせいで、逆に下見をしっかりしなくてはいけない状況に陥ってしまっているとも言えなくはない。
(にしても、この街でデートか。自分でも意外過ぎて笑っちゃうな)
海殊は溜め息を吐きながら、スマートフォンで昨日開いたホームページを履歴から開く。昨夜街のデートスポットページを調べていたのだ。
ここは東京の西部では栄えている町で、学生の住みたい街ナンバーワンなのだと言う。それもあってか、カフェやショップなど様々なジャンルの店があって、デートスポットとしても有名なのだそうだ。
海殊からすればほぼ毎日利用している場所なので、デートスポットとして見た事など一度もない。彼の行く場所など本屋かご飯を食べる場所程度だ。
生まれてこの方ずっとこの街で過ごしてきた海殊としては、この町でデートをするという実感もなかった。
(えっと、どういう順番でいけばいいのかな)
スマートフォンのデジタル時計は十時を示していた。待ち合わせは十二時だ。お昼に待ち合わせでお弁当を作ってくると言っていたので、先にご飯を食べられる場所を見ておいた方がいいだろう。
海殊はそう思い立って、駅の南口から公園へと向かって歩く。
この公園は大正六年に造られたもので、遥か昔は江戸の水源として有名な景勝地だったそうだ。園内は池周辺や雑木林のある御殿山、運動施設のある西園、第二公園と四区域に分かれていて、池周辺は低地、御殿山周辺は高台になっている。変化に富んだ景観が楽しめるので、老若男女の人気スポットなのだと言う。
海殊もたまに公園を散歩するが、いつでも人が多いというイメージだった。土日となれば大道芸人や路上ライブミュージシャンなども出て各々の芸を披露していた事を思い出し、確かにデート向きだなと思い至る。
早速その公園を目指して、公園通りを歩いていった。
公園通りでは、コンビニやカフェの他、インテリアグッズ売り場や洋服店などが立ち並ぶ。どうやらデートというのは、こういった場所を一緒に見て楽しむものだそうだ。
(あー……そういえばここのソーセージ、いつも視界に入るけど食べた事ないな)
通りに面したドイツ料理屋を見て、ふと思う。そのドイツ料理屋は店内で食事を楽しむ事ができる他、ソーセージを買い食いできる様に店頭販売も行っているのだ。
(もしお腹に余裕があったら、ここで買い食いしてみるのもいいかもしれない……って、なるほど。これが下見の意味か)
祐樹にしてはやるな、と思いながら、スマホにメモを書いていく。
こうした思いつきを増やす為の下見なのだろう。デートとは大変なものだ。
それから公園をぐるっと回ってものを食べられそうな場所に目安をつけてから、駅の反対側の商店街の方にも回ってみる。こちらの方は本屋や食べ物屋以外にも、ROFTやデパートなども多い。見て回る分には困らないだろう。
見て回るだけでデートとして成り立つのかは不明だが、カップルらしき人達が店を見て回っているので、きっとこういうものなのだ。そこに意味や意義などは必要ないのだろう。
祐樹から送られてきたメッセージによると、自分の好きなものを分かち合えるデートでなければ意味がないらしい。その自分の好きなものを分かち合えれば互いに良い関係を築けるし、それが分かち合ってもらえなければ例え付き合ったとしても長続きしないだろうとの事だ。
これまた祐樹のくせにそれっぽいことを言うものだから、何だか癪だった。
海殊は目をつけていたアンティークショップとブックカフェへと行く。場所と雰囲気を確認していた頃、スマートフォンがぶるぶるっと震えて、メッセージの着信を教えてくれた。メッセージは母・春子からだった。
『琴葉ちゃん、もう待ち合わせ場所にいるわよ。楽しみにしているがいい!』
どうして母親がわざわざメッセージを送ってくるんだと思ったが、そう言えば琴葉はスマートフォンを持っていない。家に置いてきたままだと言うので、彼女の代わりにメッセージを送ったのかもしれない。
後半については意味がわからなかったので、もはや触れようとも思わなかった。
(あ、やっべ。もう待ち合わせの十分前じゃんか)
スマートフォンのデジタル時計を指す時間を見ると、時刻は十一時五十分。真剣に見て回っていたせいで、すっかりと時間を忘れてしまっていたらしい。
(やれやれ、すっかりペースにはまってるな)
海殊は普段と異なる自分の休日に呆れながらも、どこか高揚感を隠せないでいたのだった。