鳥居の奥には、川が広がっていた。
 ずっと遠くまで続く、透き通った水の道。

 きらきら輝く水面に、わたしの顔が映る。
 肩で切りそろえた茶色い髪が、風になびく。
 水の中でまたたく丸い瞳も、短めの前髪も、化粧なんてしてない顔も、とにかく、全体的に子どもっぽい。

「到底大人には見えないな……」


「どこから来たんだ? この先は危ない。早く戻れ」

 大人っぽく微笑んでみたわたしの後ろに、影が差した。
 大きな黄金色の耳と、ふさふさのしっぽ。
 
 ──狐だ。
 狐と言っても、普通の狐じゃない。
 彼は言葉を話す、妖狐。
 なんで妖狐がいるのかって、それは、

 ここが、ひとの世じゃなくて、“あやかしの世”だから。

 わたしがあやかしの世に驚かないのも、そもそも、あやかしの存在について知ってるのにも、理由がある。
 
 彼に向かって笑みを浮かべて、一枚の紙をかかげて見せる。

『当選おめでとうございます。
 ──あなたに最高のときめきを。』

 分厚めの和紙に、金色の文字で書かれたメッセージ。
 このチケットがあると、無事に川の向こうまで辿り着ける。
 何年も探して見つけた、“あの人”に会う方法。
 
「わたし、当選者です。なので、向こうに行かせてください」

 彼は、訝しげに目を細めて、

「名前は?」

 と訊ねた。

「幾見紬15歳、高校1年生です」
「イクミ、ツムギ……」

 彼が手を出した、次の瞬間。
 彼の手の中に火が現れた。
 火を操りながら、その中で何かを探す。
 さすがは妖狐だ。

 火の中に、“ひとの世”でいるわたしの姿がぼんやりと浮かんでくる。
 勉強している姿や、友達と笑い合う姿。
 そして、桔梗の花を手に、鳥居──あやかしの世の方へ、お祈りする姿。
 
 彼はそれを、じっと見つめながら、火を握り込んで、消した。

「御無礼を働いたこと、深くお詫び申し上げます。さぁ、舟にお乗りください。精一杯おもてなしいたします」

 そして、さっきとは正反対の柔らかい笑みを浮かべながら、小舟の方を指さした。