少女たちの美しい歌声が、教会内にこだまする。
 そして歌が途切れると、澄んだピアノの旋律だけが響きわたった。
 聖歌隊の少女たちは両の膝をつくと、瞼を閉じ、祈りの姿をとる。

(エストランテが決まる……!)

 花飾りを身に着けた少女に、祝福の聖石が付けられた冠を贈られた者がエストランテとなる。
 旋律がとどろく。舞台袖から、白いワンピースをまとった裸足の少女が現れた。
 その手には聖石の輝く、細い金の冠が。

(お願い……! どうか、ロザリーに!)

 ぎゅうと両手を組んだ私を励ますようにして、ルキウスがそっと背を支えてくれる。
 壇上の少女がくるりと回る。軽やかなスカートを翻して、彼女は祈る少女の頭に冠を乗せた。
 ロザリーの、淡い紫の髪に金が輝く。

「新しいエストランテに、聖女様のご加護があらんことを!」

 わあ、と会場が沸き立ち、教会は拍手の渦が巻き上がった。
 顔を上げたロザリーが、満面の笑みを咲かせる。その目尻には、歓喜に溢れる涙が。

「ロザリー……っ!」

 ずっと待ちわびていた光景。彼女の流す涙の美しさに、私も思わず視界が滲む。
 と、私の目尻を指先が拭った。ルキウスだ。驚きに彼を見上げると、

「僕のハンカチは受け取ってもらえそうにないから、これくらいはね」

「な……っ!」

「ああ、ほら。エストランテのソロだ」

 つい、と流された視線を追って、私も壇上に視線を戻す。
 ロザリーが一歩を進み出ると、拍手が鳴りやんだ。
 深呼吸をひとつ。眩い祝福の光を一身に集めて、ゆっくりと歌い出す。

(ああ、やっぱり。こんなにも優しく、心がじんわりと温かくなれる歌声が出せるのは、ロザリーだけだわ)

 その声はまるで、春を迎えた湖の、雪解けのような。
 本当は、今すぐにでもロザリーを抱きしめて、「おめでとう」と伝えたいのだけれど。

 聖歌隊は公演後、そのまま舞台裏に戻ってしまうので、私は精一杯の祝福を込めて拍手を送った。
 ロザリーには、また、手紙を書こう。

「ありがとうございます、ルキウス様」

 公演終了後。
 興奮の余韻が残る教会内で、聖歌隊の去った壇上を見つめながら、ルキウスに告げる。