「……できたよ」

 ブーツを履いた私の両脚を隠して、ルキウスが立ち上がる。
 見下ろす彼の目は、どこか切なげで。私がその理由を探りながら言葉に迷っていると、

「……仮面。外してしまったら、中には戻れないよ。……取ってもいい?」

「!」

(ああ、それで)

 こんな時でもルキウスは、私に選ばせてくれる。
 たくさん、たくさん傷つけてしまったというのに。
 胸が、甘く苦しく締め付けられる。

(ああ、そうだったのね)

 私ったら、とんだ間違いを。

「……ええ」

 力強く頷いた私は、金色の瞳をしっかりと見つめて、

「私には、必要ありませんわ。……取ってくださる?」

「! 仰せのままに」

 そっと伸ばされた両手が、私の仮面を取り去る。
 ルキウスは不安の表情を満面の笑みに変え、

「おかえり、マリエッタ」

 仮面を座席に放ったルキウスは、手早く私のフードを被せた。
 それから颯爽と馬車を降り、

「行こう。僕たちなら、絶対に間に合う」

 差し出された右手と、向けられた愛おし気な笑み。
 私はやっと自然な微笑みを浮かべて、

「当然ですわ。遅れたら三日は口を利きませんから」

「ふふ、それは嫌だなあ」

 私らしい、口の悪さを発揮しながら、ルキウスの手を取った。