これまでにないほどの視線と陰口を受けながら、赤い絨毯を歩く。
 歩き方、変じゃないかしら。視線はずっと、前だけを向いていていいの?

 まだ夜会デビューを迎えたばかりの私は戸惑うばかりで、気づけばアベル様と共に、王室専用の座席に通されていた。

 上階の、舞台中央の正面にあたるそこは空間を広くとっているのに加え、開演直前までは柵が上がっており、目隠しを担ってくれている。
 やっとのことで剥がれた緊張にほうと息を吐き出すと、「茶を持ってこさせる」とアベル様。

「あ、いえ、そこまでお手を煩わせるわけには」

 慌てて告げるも「遠慮するな。そのための専用席だ」とお付きの方に指示を出し、「座るといい」と座席まで導いてくれる。

「申し訳ありません、アベル様。私が未熟者なせいで、無粋な憶測を広めてしまったかもしれません……」

 喧騒の中からバッチリ聞こえた、「他国の姫君か……? いや、それにしては」という誰かの呟き。
 アベル様が気づいていたのかはわからないけれど、私の片手を両手で包むと、

「言ったろう。俺は、何を噂されようが構わない。それよりも、キミの心を痛めさせてしまった己が不甲斐ない。すまない。俺のエスコートが拙いばかりに……」

「いえ! アベル様のエスコートは誰が見ても完璧でございましたわ!」

「そんなことはない。そもそも、こうして誰かを連れ立つのも初めてなんだ。男のリードが上手ければ、どんな女性だって輝く。昔からよく言われていたのだが、初めて身に包まされた。……次までに、もっと学んでおこう」

 次。きっとその時は私ではない、"本物の淑女"をエスコートされるのだろう。
 上品で、優雅で。誰もが羨むほどに美しく、なによりも、愛のある。

(そんなお二人の並ぶ姿が見れたなら、私はその神々しさに涙を流してしまいそうで――)

 って、あれ?

(……アベル様が別のご令嬢と並ぶ姿を想像しても、心が痛まないわ)

 悲しさがまったくないわけではないけれど、それよりもアベル様が幸せそうにしてくださっていることが、とにかく嬉しくて。
 妬ましさなど微塵もなく、ただただ祝福の気持ちが溢れてしまいそうな……。

(……おかしい)

 だって私はアベル様に恋をしているのよ?