「露出度の話ではありません、お色です! こんな、アベル様の持つお色のドレスを着た姿なんて見られたら……」

「み、見られたら……?」

「後日大量にドレスをお届けになられ、何度もお着替えしての鑑賞会待ったなしです!」

「なっ、ありえ……っ!」

「ない、と言い切れます?」

「…………」

 いえない。むしろミラーナの言う通りの未来が軽々と想像できてしまう。
 私の沈黙から察したのだろう。ミラーナは「でしょう?」と笑んで、

「私とお嬢様のためにも、本日はルキウス様にはお会いになられないよう過ごさなくては。それに今日のお嬢様は、"謎のご令嬢"ですしね」

 すっと眼前に差し出されたのは、細かなダイヤとパールが散りばめられた純白の美しい仮面。
 今日の為にと、アベル様から事前に贈られたもの。

 この仮面をつけている間の私は"ルキウスの婚約者"ではなく、"アベル様の連れ人"になる。
 夢にまでみたはずの、アベル様のパートナーに。

(そして、ルキウスのパートナーは……)

「このような立派な仮面をご用意くださるなんて、アベル様も本日のご同行を楽しみにされているようですね。お二人きりになられる場も多いでしょうし、存分にアピールをしてきてくださいませ!」

「え、ええ。そうよね。……頑張るわ」

 告げながら、手にした仮面を見つめる。
 言葉と心がかみ合っていないような感覚に陥るのは、どうしてなのだろう。

(……そういえば)

 ふと、ミズキ様の言葉が脳裏に浮かんだ。

『マリエッタ様にはちゃーんとご自分の意志で、心に向き合ってほしいしね』

『マリエッタ様は、変化を恐れずに受け入れていく強さをお持ちだよ』

 心。私の、心。
 この、晴れない心の靄の正体を、ちゃんと知らなければいけない気がする。

「お嬢様、お迎えの馬車がご到着されました」

 扉の外から届いた爺やの声にはっと意識を浮上させ、「いま行くわ」と了承を伝える。

(今はとにかく、気持ちを切り替えなくっちゃ)

 私はアベル様が好き。この感情に、変わりはないはずだもの。
 ミラーナの言う通り、今日はめいっぱいアピールをして、少しでもアベル様に好いてもらわなきゃ。