「奇跡だなんて、最初に作ってくださったのはルキウス様ではありませんか。私も本当に、嬉しかったのですのよ? そのお礼として考えてみましたら、やはり、私も同じようにと思いまして……」

「……ねえ、マリエッタ。物凄くキミを抱きしめたいのだけれど、駄目かな?」

「な! どなたが訪ねてくるともしれないのですのよ!? 慎んでくださいませ!」

「あれ? 人払いが出来ていたら許してくれるの? それじゃ、今すぐ鍵を……」

「ルキウス様!」

「あはは、大丈夫。しないよ」

 よっとと上体を起こすルキウスの横で、私はほっと安堵の息を零す。
 心臓がまだドキドキしている。
 その中にほんの少しだけ、安堵とは別の感情が隠れているような……。

 途端、ルキウスが私の顔を覗き込んできた。
 にっと悪戯っぽく両目を細め、

「僕が相手だから駄目なんじゃなくて、人が来たら嫌だからなんだ。だいぶ僕の努力も実ってきたかな?」

「それは――っ!」

(ルキウスの言う通りだわ)

 どうして私、アベル様ではないことを理由にしなかったの?
 戸惑いに、思わず口を噤むと、

「……ごめんね、マリエッタ。調子に乗り過ぎちゃった」

 ルキウスは今度こそ立ち上がり、

「帰りは僕が送るから、ゆっくりしていって」

「え? ですが、ルキウス様は浄化石がお戻りになるまでは本部を出られないのでは」

「送って帰ってくるだけだし、平気だよ」

「なりません! 万が一のことがありましたら、皆さまに申し訳が立ちません。当家の馬車で来ておりますし、中にミラーナを待たせてあります。無茶はなさらないとお約束くださいましたし、要件を済ませたら、帰りますわ」

「要件? このクッキー以外にも、何かあるのかい?」

「あ」

 とっさに口を覆った私に、ルキウスが不思議そうにそうにして小首を傾げる。

(なにをためらっているの、私……! ちゃんと、伝えないと)

「マリエッタ?」

「……申し訳ありません、ルキウス様」

 頭を下げる。どうして声が震えるのだろう。
 私は両手をぎゅっと握りしめ、

「聖女祭、別の方のエスコートを受けることになりましたの」

「……え? それって、もしかして」

「……アベル様ですわ」

「!」