「……申し訳ありません。お仕事の邪魔になると分かっておりましたのに」

「謝らないでよ、マリエッタ。キミならいつでも大歓迎なんだから。まあ、キミにとってあまりいい環境とはいえない場所だけれどね」

「そんなことは。ジュニー様も気遣ってくださいますし、隊員の皆様も気さくな方ばかりでしたし。この建物だって、廊下ひとつとっても興味深い箇所が多く、とても楽しいですわ」

「ふふ。さすがはマリエッタ。本当ならこんなところでお茶を飲んでいるより、さっきの訓練場を見学してみたかったでしょ」

「よくおわかりになりますわね」

「そりゃあ、僕はキミの婚約者である前に、幼馴染だしね。キミは昔から恐怖心よりも、好奇心の方が強いから」

 二つのティーカップに紅茶を注いだルキウスが、私の対面に腰かける。

「お茶菓子の用意がなくてごめんね。すっかり忘れてた。ジュニーなら何か持っているかもしれないから、聞いてみようか」

「あ、それでしたら」

 降ってわいた好機に、私は緊張を押し込めながら、小袋をルキウスに差し出す。

「これを。ルキウス様にお渡ししたくて、持って参りました」

「僕に……?」

 頷いた私から受け取ったルキウスが、丁寧に小袋を開く。

「これは……クッキー?」

(しっかりするのよ、マリエッタ……!!)

 私は逃げ出したい衝動をぐっと耐え、意図的に背筋を伸ばし、

「私が、作りましたの」

「…………え?」

「と、といいましても、料理長にかなりお手伝い頂いていますがっ! その分、味は保証いたします。毒見が必要なのでしたら、先に私が一枚――」

「ま、まってマリエッタ……! えと、キミが……、このクッキーを? それもこれって……僕の為、だよね?」

(あ、あれ……?)

 ルキウスが私の告げた内容に対して、こうも疑り深いのは珍しい。

(てっきり、いつものように甘い言葉を並びたててみたりして、喜んでくれると思ったのだけれど……)

 ルキウスは私を見てくれないばかりか、にこりともしてくれない。