「普通のご令嬢相手じゃあ、こうはいきませんからねえ。オレ達の"城"に敬意をはらってくださるマリエッタ様が隊長の婚約者で、めちゃくちゃ嬉しいです」

「……ありがとうございます」

(もうすぐ、婚約者ではなくなるのだけれど)

 胸が重苦しいのはきっと、人の良いジュニーを騙しているような心地がするから。
 そう。けして、ルキウスとの婚約破棄に迷いが生まれたなんてことは――。

 ジュニーの話によると、ルキウスがいるのは裏手にある訓練場らしい。
 すっかり内部に興味津々な私は目だけを動かしてあれこれ見学していたのだけれど、目的地に近づくにつれ、構造よりも人に目がいくようになってきた。

「あ、あの、ジュニー様……。彼らは医務室などにお連れしなくて、大丈夫なのでしょうか」

 私の視線の先には、廊下にもたれかかり俯く数人の隊員が。
 ジュニーは一瞥もせずに、

「あー、放っておいていいですよ。体力切れなだけで、ヤバい傷があるわけじゃないんで。隊長、その辺の加減も完璧なんですよねえ」

 つまり、この人たちはルキウスの被害者ってこと。

(ルキウスったら、どれだけ暴れまわってるのよ!?)

 思い返せば一度たりとも、ルキウスの実戦姿を見たことがない。
 "黒騎士"と称賛される実力だって、誰かが語るのを耳にしているだけ。

(ルキウスって、本当に強かったのね……)

 初めてみる予想以上の被害っぷりに、彼の特出した能力を実感していた刹那、

「ジュニーいいいいいふくたいちょううううううう!!!!!」

 薄暗い廊下から、とある隊員が泣きながらジュニーに駆け寄ってきた。
 かと思うと、

「副隊長!? 戻られたのですね!!?」

「ということはそちらが例の……!!」

「その通り。オレ達の最後の希望、マリエッタ様です!」

「えっ? そんな……」

 仰々しい物言いに、大げさな、と言おうとした次の瞬間。

「うあああありがとうございます!! お願いします! どうか俺達をお助けください!!」

「隊長を!! ルキウス隊長を止めてください……っ!!」

「もう俺達にはマリエッタ様しかいないのです!!!!」

 号泣する大の男たちがわらわらと集まり、私の足元で膝を折る。
 おまけに揃いも揃って、あちこちがボロボロだ。

(たしか騎士団の制服って、強化魔法がかけられていたような……)