「そうですよお。二日前、紫焔獣が出たからって急遽遠征に向かった時はまだ平気だったんですけど、昨日も事後処理の最中に、危険レベルの上がった湖の報告がきちゃって。急いで浄化に行ったら、今度は浄化石が欠けちゃったもんで、新しい石がもらえるまで待機になったんです」

「そうでしたの……」

(ルキウスが訪ねてきてくれなかったのは、仕事で忙しかったからだったのね)

 思わずホッとした顔をしてしまったのだろう。
 ジュニーはにっとどこか悪戯っぽく口角を吊り上げて、

「大丈夫ですよお、隊長に限って浮気とかはぜったいにあり得ないんで!」

「え!? ちっ違いますわ誤解です! 私はただ、その……ルキウス様が、とうとう私に愛想を尽かしたのだと」

「隊長が、マリエッタ様に愛想を尽かす? いやあ、ないです! 浮気よりもあり得ないですよー! だって隊長の機嫌が悪いのも、マリエッタ様に会いに行けていないからなんですよ?」

「ええ!?」

 そんな理由で!? と叫んだ私の胸中を察してくれたのか、ジュニーはますます食い気味に、

「信じられます? たったの三日ですよ? なのに隊長ときたら、"うーん、そろそろ限界かな"とか言っちゃって、訓練の名の下に部下全員と剣闘を始めちゃって。あの人ただでさえ体力お化けなもんだから、こっちの身がもたないってんですよ!」

 とゆーことで、一緒に来て下さい!
 そう急かすジュニーに背を押され、こうして馬車に乗って王立騎士団の本部に向かっているわけなのだけれど……。

(もしかしたら、ますますルキウスの機嫌を損ねてしまうかもしれない)

 小袋を握る手に、ぎゅっと力が入る。

(聖女祭の、アベル様のこと。ちゃんと、伝えなくちゃ)

 じくじくと胸が痛む。これはそう、罪悪感。
 今年も一緒にと約束をしたのに。相談のひとつもせず、身勝手に裏切ってしまった。
 心が重い。それでも私は、言わなければいけない。