ひょこりと爺やの後ろから顔を覗かせたのは、炎のような真っ赤な短髪が目を引く男性。歳はルキウスと同じくらいに見える。
 知らない顔。それでも私が警戒しなかったのは、その纏う服が良く知ったモノだから。

 黒の、ルキウスと同じ王立騎士団の制服。
 彼はロザリーの存在に気が付くと、「すみませんねえ、麗しいレディのお茶会に薄汚いのが乱入して」と会釈してから、私へと視線を移し、

「お初にお目にかかります、マリエッタ様。オレはジュニー・ルイ。ルキウス様と同じ遊撃隊で、副団長やってます」

「! あなたが……!」

「え? もしかして隊長、オレの話とかしてくれちゃってたりするんです?」

「一度だけ、副団長はいつも眠そうにしている、緊張感のない方だと……」

「あー、まあ間違ってはないっすけどねえ」

(自覚ありなのね……)

 ルキウスから聞いた時はなんて失礼な評価なのかしらと心配になったけれど、どうやら間違っていなかったらしい。
 まあ、確かにのんびりと話す仕草とか、下がった目尻が眠そうに見えなくもないけれど……。

「って、のんびり話してちゃ駄目でした」

 ジュニーはすっと膝を折り、自身の手を胸元にあてる。

「マリエッタ様、時は一刻を争います。どうか不憫なオレ達を救ってやってください……!」

「…………へ?」


***


「マリエッタ様、もうすぐ着きますからねー」

 走る馬車の窓の外側から届く、ジュニーの力強い声。
 返答は求めていないだろうから、私はうっかり不安を吐き出さないよう口を噤んでおく。

 私が座するのは、慣れ親しんだ馬車の中。
 対してジュニーは愛馬に乗っていて、馬車に合わせて並走している。

(本当に、私が力になれるのかしら)

 落とした視線の先。私の膝上には、ここ数日出番のなかった小袋。
 中にはルキウスに会ったら渡そうと作っていたものが入っている。

「一緒に、訓練場に来て欲しいんですー」

 気を利かせたロザリーが退出した応接間で、ジュニーはしくしくと泣くふりとしながら、

「隊長、オレ達でうっぷんばらししてるんですよお」

「うっぷんばらし? ルキウス様が?」