「ほんっとうにごめんなさい、ロザリー!!」

 勢いよく頭を下げた私に、「そんな、マリエッタ様。お顔を上げてください!」とロザリー。
 慌てるのも無理はない。だって貴族が平民に頭を下げるなんて、本人たちは納得していたとしても、周囲が良い顔をしないから。

 だからこそ今日はロザリーの元に馬車を送って、わざわざ我が家に赴いてもらったのだ。
 この応接室にいるのは私とロザリー、そしてミラーナだけ。

 ミラーナには事前に私の意志を伝えてあるから、黙って見ないふりをしてくれている。
 つまり私は遠慮なく、ロザリーに謝ることが出来る。

「平気よ、ロザリー。いくら私が頭を下げても、ここなら他の目はないわ。だからあなたも好きなだけ私を咎めてくれていいのよ!」

「マリエッタ様を咎めるなんて、ありえません!」

「なぜ? 私は約束を破ったわ。あの真っ赤な薔薇のハンカチを持って応援にいくと言ったのに、私ったら、私ったら……っ!」

 どうしてせめて、考える時間を貰わなかったのだろう。
 たとえ同じようにアベル様のお誘いを受けることになったとしても、もう少し冷静に、状況を整えてからでも遅くはなかったはずなのに。
 のしかかる激しい後悔に項垂れる私に、

「本当に、気に病む必要はありません、マリエッタ様。むしろ、良かったとさえ思っているのですから」

「ロザリー……?」

 そろりと顔をあげると、優しい微笑みと視線が合う。

「マリエッタ様に歌を聞いていただけないのは、心より残念に思います。けれどもそれ以上に、大切なマリエッタ様の想いがアベル様に受け入れていただけそうで……。まるで自分のことのように、嬉しく感じるのです」

 頑張ってください、マリエッタ様。
 ロザリーは胸の前で両手を組み、祈る様に言う。

「好機はそう何度も訪れるものではありません。命はひとつ。どうか悔いのないよう、マリエッタ様の一番を優先させてください。マリエッタ様の喜びが、私の喜びなのですから」

「ロザリー……」

 なんっっっていい子なの?????
 いえ、知っていたわよ? だから私はロザリーが大好きで、いつだってロザリーの幸せを願っているのだもの。

(だからこそ、不甲斐ない)