(本当は心配なくせに、余裕ぶって。ルキウスは強がりすぎだわ)

 あんなにも当然のように許可を出されては、あれこれ悩んでいた時間が無駄になってしまうじゃない。

「……その紅茶は、口に合わなかったか?」

「へっ?」

 ぷつりと思考が途切れた途端、声の主が視界に入った。
 アベル様。そう、私の対面にいるのは、恋しいアベル様。
 彼は眉間に心配げな皺を刻み、

「随分と渋い顔をしていた。それが口に合わなかったのなら、変えさせるが」

「い、いえ! 紅茶はとっても美味しいですわ! ただ、ええと……そう! 王城でアベル様とこうしてお茶をいただけるなんて夢にも思わず……粗相をしてしまわないか、緊張をしてしまって」

 と、アベル様は「そうか」と納得したように視線を下げ、

「気張る必要はない。……唐突に呼び出して、すまなかった」

「そんな、謝らないでくださいませ、アベル様。確かにとても驚きましたけれども、こうしてお誘い頂けたこと、本当に嬉しかったのですから」

 そう、ルキウスへの罪悪感がないといえば嘘になるけれど、間違いなく私は嬉しかった。
 今だって心は浮足立っていて、まだこの現実が夢のように思えている。
 アベル様はというと、必死な私に驚いたように目を見張ったけれど、途端に頬を和らげて、

「優しいのだな、マリエッタ嬢は」

「そ、でしょうか」

(ううーーーー!! 静まれ心臓の音!!!!!!)

 なんでそう、絶妙に突き刺さる表情をなさるのかしら。
 なんとか顔面では平常心を保ってみせているけれど、これだっていつまで持つか……。

「この、白薔薇が」

 アベル様はついと視線を周囲の木々に流して、

「ほどなくして、花弁を落とすと聞いてな。その時、マリエッタ嬢の姿が浮かんだ。散る前に、もう一度見せてやりたいと」

「アベル様……。お気遣い頂き、感謝いたしますわ」

 高鳴る胸を抑えつつ、私も周囲の木々へ目を遣る。
 さすがは王城の庭園と言うべきか、手入れが行き届いていて、目につく花はどれも見事な花弁を纏っている。

 けれどもよくよく見れば、外側の花弁が今にも零れ落ちそうになっているものも。
 庭師の手よりも、朽ちていく方が早いということ。