「その調子です、お嬢様! ドレスに合わせて髪型も変えなくてはいけませんね。ああー、今夜は夜更かししてしまいそうです」

(服も髪型も変えたなら、ルキウスはどんな反応をするのかしら)

 驚くのは間違いないわね。
 それから私の不調を疑って、けれども終いには必ず"似合うね"って笑って――。
 その時だった。

「マリエッタ様、失礼いたします」

 慇懃《いんぎん》な礼を交えて現れたのは、執事服を纏った白髪の家令。

「爺や……!」

「楽し気なひと時をお破りする無礼をお許しください。今しがた、王家より手紙が届きました。マリエッタ様宛にございます」

「王家から、私宛に? いったいどなたが――」

(まさか)

 息を呑んだ私の予測を肯定するように、爺やは優しく笑みながらゆっくりと頷き、

「皇太子アベル様から、お茶会のお誘いにございます」

(まさか、アベル様とお茶が出来ることになるなんて)

 白薔薇の咲き誇るお庭の中。
 テーブルの上には美しいセイボリーとスイーツの乗る三段トレイ。
 ピカピカに磨かれたシルバーは曇りひとつなく、王室御用達の刻印を持つティーセットには、同じく格別な紅茶が注がれる。

 アベル様からのお手紙が届いたその日の夕刻、いつものように顔を見せにきたルキウスに、手紙の内容を打ち明けた。
 しどろもどろ話す私に、ルキウスは驚いたように目を丸くしてから、すっと双眸を細めて、

「……簡単には逃してもらえない、か」

「え?」

「ううん。"堅氷の王子"様が誰かをお茶に誘ったなんて、初めて聞いたよ。よかったね、マリエッタ」

「そ……れは、私が、行ってもいいと……?」

「うん? そりゃあ、僕の我儘を言うのなら、行ってほしくはないけれど。侯爵家のご令嬢たるマリエッタが王子様のお誘いを断るなんて、許されないでしょ? それに、マリエッタ自身にとっても、嬉しいお誘いだろうし」

「それは……そうですが」

「ね? だから僕のことは気にせず楽しんでおいで。大丈夫。たった一度や二度のお茶で負ける気なんて、していないから」