「わからないの。アベル様を想うと、やっぱりお側にいたいと感じるのに。ルキウス様との時間も、心地よく感じてしまうなんて。こんな……まるでお二人を天秤にかけるような真似をするなんて、私はとんだ悪女だわ」

 悪いのは自分だというのに、どんどん胸の内が黒く重くなっていく。

(おまけにほんの少しだけ、このまま、ルキウス様が婚約を破棄せずにいてくれたなら……なんて)

「自分の心なのに。どうしたらいいのか、全くわらかないの」

 ぽつりと呟くと、ミラーナが「そうですわねえ」とマカロンの乗るお皿を置いてくれる。

「私は、お嬢様がいつまでもお幸せに笑っていてくださることが、一番の望みにございます。それは旦那様も、奥様も、他の使用人達も同じ気持ちだと。なのでどうか、お嬢様を大切に。そしてまた、お嬢様も大切にしたいと願うお相手と一緒になってくださったら、これ以上の喜びはありません」

「ミラーナ……」

「ルキウス様もまだ、お時間をくださっていますし。もうしばらく、しっかりお悩みになってもよろしいのではないですか? 私も"悪女"なお嬢様の侍女として、精一杯の手助けをさせていただきます」

「……呆れはしないの?」

「とんでもありません! ご自分の気持ちに素直に、真剣に向き合えるのは、お嬢様の素晴らしいお力のひとつだと思います。さ、そうと決まれば、明日のお召し物はもう少し"悪女"らしいドレスを選んでみましょうか。普段よりも色を落ち着かせて……ああ、身体のラインのでるシンプルなカッティングのものも良いですね!」

「ミラーナ……なんだか楽しんでない?」

「だって、悪女なお嬢様だなんて初めてなんですもの! せっかくの機会なのですから、徹底的に悪女らしく! お嬢様の新たな魅力を余すことなく引き出しておきましょう!」

 楽し気に笑うミラーナに、つられて私も笑んでしまう。

(やっぱり、ミラーナがいてくれると心強いわ)

 先ほどまではあんなに陰鬱としていた気分が、彼女の明るさに導かれて、すっと溶け出していくよう。
 途端にお腹が空いてきて、私は目の前のマカロンに手をつけることにした。

「そうね。私は何を着ても似合うでしょうから、気分の乗っているうちにもっと新しいドレスに挑戦しておくべきね」