それでいてうっすらと、甘さを感じるような。

「ルキウス様は、王子様ではありませんわ。もちろん、アベル様とも違います」

「……うん、まあ、そうだよね」

「ルキウス様は、ルキウス様です。強さも弱さも、優しさも醜さも。無いものとせずに受け止め、私に見せてくださる、とても人間味に溢れた方。……簡単に出来ることではありませんわ。私はそんなルキウス様を、心より尊敬しております」

「マリエッタ……」

 この、湧き上がる温かな感情の名前は、まだよくわからない。
 だから私は正直に口にするまでだ。ルキウスならばきっと、正しく受け取ってくれるから。

 刹那、どこからか吹き降りてきた柔い風が、私達の間を駆け抜けた。
 銀の髪が踊る。途端、私は気づいてしまった。

(――ルキウスの耳、真っ赤だわ)

 数秒遅れて、彼の頬までもが朱に染まる。

(え、これはもしかして、照れて……?)

「ああ、そうだね」

 ルキウスが天を仰ぐようにして顔を覆い、息を吐き出す。
 それから私へと顔を向け、心底愛おし気な微笑みを浮かべた。

「僕は、僕だ。ありがとう、マリエッタ」

「――っ!」

(ど、どうして……!)

 どうして私はこんなにも、胸がドキドキしているのだろう?
 私が一番に恋焦がれているのは。婚約を願っているのは、アベル様のはずなのに。

「聖女祭、今年もエスコートさせてくれるよね?」

「しっ、しかたありませんわねっ! 聖女祭までに婚約を破棄してくださらないのでしたら、ルキウスにお願いするしかありませんもの」

「ふふ、楽しみだねえ」

 私は戸惑いを押し込めるようにして、バスケットからサンドイッチをもうひとつ手に取る。
 口に含んだ木苺のジャムは慣れたそれよりも少しばかり甘くて、冷めた紅茶の渋みを優しく癒してくれた。