「寛容なんかではないよ。そうでも言っておかないと、自分が制御しきれないんだ。本当は、マリエッタとアベル様が二人で会っているなんて、想像するだけでその間を切り裂きたくなる。言葉を交わすと言うのなら口を塞いでしまいたいし、あの人を見つめるというのなら、その目を覆ってしまいたい。ね? ちっとも寛容なんかじゃないでしょ。僕のこの腹の奥は、ドロドロで醜い嫉妬と欲望ばかりだよ」

「ルキウス様が、嫉妬を……? そのようなご様子、一度だって見たことがありませんわ」

「そりゃあ、マリエッタにはカッコいい僕だけを見せたいもの。……カッコいい僕を、貫くつもりだったんだけどね。マリエッタがこうもまっすぐに僕と向き合ってくれるのだから、僕だけ偽っているのは、違うかなって」

 ルキウスがそっと身体を傾け、その顔を私に近づけた。
 金の瞳は湖畔から反射する陽光を写して、きらきらと明かりを躍らせる。
 その瞬きに目を奪われているうちに、唇に、掠めるようにしてルキウスの指先が這う。

「愛とは醜いものだね、マリエッタ。ううん、醜いのは、僕だけなのかもしれない。けれど僕は理性のない獣ではないから、きちんと"待て"が出来るんだ」

 私の手を掬い上げたルキウスが、指先に柔い口づけを落とす。

「早く僕のところに飛びこんでおいで、マリエッタ。この手に聖女の加護が宿らなくたって、僕にとってキミは唯一無二の乙女だよ」

「ルキウス様……」

「どう? 幻滅した? キミの好む"王子様"とは、似ても似つかないね、僕は」

 ルキウスが身体を引く。
 私の答えなんて聞かずともわかっているとでも言いたげに、「ほら、見てごらんマリエッタ。湖に雲が映っているよ」と話題を断ち切ってしまう。

(ルキウスはきっと、怖いのね)

 強気な態度で微笑んで、甘い言葉で翻弄してみせるくせに、私に拒絶されるのが、怖いのだわ。
 だから愛情も、優しさも。一方的に投げつけて、私からは求めない。
 始めから"貰えないもの"としていれば、たとえ得られずとも、悲しまずに済むから。

(臆病な人)

 けれども嫌だとは感じない。
 喉の先の、心臓に近い部分がくっと締め付けられているような。