「そ。こっそり料理長にレシピを教えてもらっちゃった。木苺のジャム、マリエッタが好きでしょ? かなり料理長の味に近かったと思うのだけど、やっぱりバレちゃったなあ」

 残念、と笑いながら、ルキウスは自身の手にしたサンドイッチをパクリ。

「もう一度ここに来れた時は、僕の作ったサンドイッチを食べてもらいたいなあって思ってたんだ。ごめんね。他のモノは違うから、そのサンドイッチは下げてもらって――」

「い、いいえ! 必要ありませんわ、ルキウス様。だって、ちゃんと美味しいですもの」

「大丈夫だよ、マリエッタ。僕には世辞なんて使わなくて」

「お世辞などではありませんわ! 包み隠さず言うのなら、たしかに料理長のサンドイッチの方が美味しいですけれど。まさかルキウス様がお作りになってくださったとは夢にも思いませんでしたから、料理長がレシピを変えたのだと思いましたの。ですからちょっと驚いただけで、このサンドイッチも、充分に美味しいですわ」

 それに、と。私は手の内のサンドイッチへと視線を落として、

「……嬉しい、ですわ。私が木苺のジャムを好いてると知ってくださっていたことも、私の為にと、自ら作ってくださったことも。ルキウス様のそのお心が、嬉しいです」

「マリエッタ……」

「ですので、好きなだけ頂きますわね。私、馬車に長いこと乗るからと昼食を減らしておりましたのよ? この湖に連れてきたのはルキウス様なのですから、ちゃんと私のお腹の面倒も見てくださいな」

 ぱくぱくとサンドイッチを食べながら、ストンと腑に落ちた。
 そう、私はいま、とても嬉しい。
 胸が、頬が。ほわりと温かな熱を感じている。

(アベル様相手には感じたことない、くすぐったさだわ)

 この感情は、いったいなんなのだろう。
 幼馴染としての安心感? 
 けれどもちょっと恥ずかしくて、それでも決して、居心地の悪さはない。

(……ルキウスは、こんなにも私を大切にしてくれているのに)

 私ときたら、たった一言、謝ることすら出来ないなんて。
 二つ目のサンドイッチをお腹におさめて、私は「……ルキウス様」と覚悟を決めた。と、

「謝らなくていいよ」

「…………え?」