揺れる馬車の中。ミラーナは先に別の馬車で帰したとかなんとかで、対面に座るのはルキウスのみ。
 彼がいったいいつ教会に到着したのかは分からないけれど、きっと、大方は把握しているのだと思う。

 だから馬車に乗り込むなり、早速と尋問が始まるのかとびくびくしていたのだけれど……。
 ルキウスは先ほどからずっと窓の外を眺めてばかりで、アベル様とのことを訊ねてくる気配はない。

 というか、ずっと無言。
 会話無し。それはもう、不気味なくらい。

 最初はアベル様とのことに腹を立てての沈黙なのかと思ったけれど、どうにもそんな雰囲気は感じ取れない。
 私を向かない横顔は穏やかで、だからこそ、余計にわけがわからない。

(とはいえ、大なり小なり、アベル様とのことを怒っていないはずがないわ)

 現状、私はまだルキウスの婚約者。つい先日、ルキウスの諦めがつくまで付き合うという約束もしている。
 偶然とはいえ、ルキウスのいない時に他の男性……それも、想い人に会っていたとあっては、不誠実この上ないだろう。

(やっぱり、謝るべき……よね)

 それに、最初から会う約束していたのだと誤解されても困る。
 私とアベル様の名誉のためにも、きちんと経緯を説明したうえで謝罪を……!

「ル、ルキウス様っ」

 意を決して発した呼びかけに、ルキウスが「ん?」とその瞳を私に移した。

「どうかしたの、マリエッタ? 肌寒いようなら、僕の上着を……」

「いえ、ちっとも寒くなんてありませんわ! その……ず、随分と早いお戻りでしたのね。予定では明日だと聞いていたのですけど」

(ちっ、ちーがーうううううううーーーーーーっ!!!)

 謝るんでしょ、私!?
 これじゃまるで、ルキウスのいない日を見計らって会おうとしていたのにって言っているようじゃない!

「あと、いえ、違いますのよ? 今夜戻って来られては困るという意味ではなくってですね!?」

「ふっ、はは。大丈夫。そう慌てなくても、分かってるよ、マリエッタ」

 ルキウスはクツクツと楽し気に喉を鳴らしてから、

「マリエッタに早く会いたかったからね。張り切って"お仕事"したら、予定よりも早く終わっちゃって。まあ、細かい事後処理はあるけれど、それは僕がいなくてもいい作業だから。後は任せて、先に帰ってきたんだ」

「そう……でしたの」