不思議なほどにするりと出て来てしまったのは、この場の雰囲気にのまれてしまったから?

「申し訳ありませんっ! 私ったら、なんと身の程をわきまえない発言を……! どうか、小娘の戯言とお許しくださいませ」

「いや、謝る必要はない、マリエッタ嬢。……俺も、同じことを考えていた」

「アベル様……?」

 アベル様はコツリと歩を進め距離を詰めると、私の右手をそっと救い上げた。
 陽の下の時のそれよりも深い青の瞳には、揺れる蝋燭のオレンジが、熱のように揺らめく。

「……願わくは、この手に聖女の加護が宿らんことを」

 指先に、触れるか触れないかの。
 声を発せずただ見つめるだけの私に小さく笑んで、アベル様は礼拝堂を出て言ってしまった。
 残された私はひとり硬直したまま、目だけで自身の指先を見遣る。

「……、~~~~~~っ!!???」

 キス、いいえ触れてはいなかっし、あれは挨拶のそれだとは分かっているけれども!! 

(で、でもでもでもでもアベル様にキスを……っ!!!!!!)

「どどどどどどうしたらっ」

 え? これはもう聖女として、アベル様の求めるままにお側にいるしかないわよね????
 というか、ここまでしていただいて聖女になれないないなんて、私が耐えられない……っ!!
 私はばっと振り返って、ルザミナ様の像を見上げる。

「どうか、どうか私に聖女様のお力をお貸しくださいませ……っ!」

 毎日。そう、毎日お祈りに来なくっちゃ。
 そうすればルザミナ様にも私の気持ちが届いて、きっと、聖女の力も私に――。

「うーん、でも僕は、マリエッタが聖女になる必要はないと思うけどなあ」

「なにをおっしゃいますの!? アベル様にここまで求めて頂けるのでしたら、聖女でもなんでも必ず――」

 勢いで振り返った先。薄闇に立つその人に、私はひゅっと喉を鳴らして固まった。
 心臓がバクバクと鳴る。背に、嫌な汗が浮かぶ。

 だって、おかしい。
 どうして彼が、ここに。

 混乱する私の心中を見透かしたように瞳を緩めて、彼――ルキウスはにっこりと。
 恐ろしいほど綺麗に、ほほ笑んだ。

「迎えに来たよ、可愛い可愛いマリエッタ」