(お、落ち着くのよマリエッタ! このチャンスをモノにしなくてどうするの!?)

 次、いつアベル様にお会いできるのかも分からないのだもの。
 今のうちに少しでも好感度を上げて、距離を縮めなくちゃ……っ!

(け、けど、距離を縮めるってなにをすればいいの……!?)

「マリエッタ嬢は、よく、ここに来るのか?」

「へ?」

 思わず間抜けな声を出してしまった私に、アベル様はふ、と優しく瞳を緩めた。
 表情で伝わる。パニックになっている私を、気遣ってくれたのだ。
 胸がきゅんと鳴るのを感じながら、「い、いえ」と口にする。

「本日は少し用事がありまして……。アベル様は、この時間によくお祈りに?」

「……満月の夜に、こうして秘かに訪れている。聖女の誕生は、満月の日が多いようだからな」

「満月……」

 刹那、昨日のロザリーの呟きが浮かんだ。

『明日は、満月』

(ロザリーは、アベル様が満月の夜にお祈りにくるのを知っていたんだわ)

 だから私を呼んでくれた。
 恋しいアベル様と、会わせるために。

(ロザリー……! やっぱりあなたは優しい世界一の友達だわ……っ!)

 帰ったらすぐにお礼の手紙を書かなくちゃ!

「……マリエッタ嬢は」

「はいっ!」

「聖女、ではないのか?」

「え……?」

 聖女。聖女? 誰が、私が??
 まさか、とたじろぎながらも、アベル様はいたって真剣でご冗談ではない様子。
 私は"まさか"を期待に染めながら、目を閉じて自信の魔力を知るべく神経を研ぎ澄ます。

 淡い光が自身を包む気配がする。
 私は魔力の発動を止め、そっと瞼を上げた。アベル様を見上げる。

「残念ですが、私は聖女ではありませんわ。私の魔力に浄化の力はありません。あるのは、傷を癒す治癒の力のみになります」

「……そうか。失礼なことを訊ねた」

「いいえ。お力になれず、申し訳ありません。……私も」

 私は視線を落として、すっかり光の失せた自身の両手を見遣る。

「私も、聖女になれたならと願うことがありますの。そうすれば、アベル様のお力に……もっとお話することを、許されますのにって」

「…………」

(って、私ったら何を言って……!?)

 今更後悔しても、言ってしまったことは取り消せない。

(こんな恐れ多いこと、言うつもりなんてなかったのに!)