「ご、ごめんなさいロザリー……っ! 私ってば、あなたの気持ちを無視して勝手に……!」

 知らず知らずのうちに、優しいロザリーを苦しめ続けていたのかもしれない。
 そんな恐怖に慌てて頭を下げると、

「え!? いえっ! 平気です……! 誤解です、マリエッタ様……!」

 頭を上げてください、と焦る声に、私は「誤解?」と訊ねながらおずおずと頭を上げる。
 ロザリーは「はい」とホッとしたように表情を緩めてから、「つまらない話ですが、聞いてくださいますか? マリエッタ様」と苦笑を浮かべた。

「私も、以前よりエストランテには憧れがありました。けれども私の歌声は飛びぬけた華やかさもなければ、活力を与える力強さもありません。そもそも歌うことしか取り柄のない私には、過ぎた夢だと諦めていました。そんな折、マリエッタ様が私の歌を好きだと。感動したと言ってくださって、一緒に歌ってくださって。もう一度、エストランテの夢を抱いてもいいのかもしれないと、思えるようになりました」

 ロザリーは白い頬をうっすらと赤くしながら、

「歌う楽しさを教えてくださったのも、私に夢見る勇気を与えてくださったのも、すべてマリエッタ様です。ありがとうございます、マリエッタ様」

「ロザリー……っ」

 そんな、そんな葛藤があったなんて。
 私は瞳が潤むのを必死に耐えながら、「大丈夫ですわ」と胸前で両手を組んでロザリーを見つめる。

「ロザリーは絶対、絶対にエストランテになれますわ。だってロザリーの歌声は誰よりも優しくて、心地よくって……悪い気持ちを消し去ってしまうかのように、清らかなんですもの」

 そう、そうですわ。
 私は確信をもって、力強く頷く。

「確かにエストランテは代々、華やかで力強さを持った方が選ばれがちですけれど、全てがそうではないでしょう? 特に近頃は聖女様の不在が続いて、人々は不安が募っているわ。こんな時に求められるのは、きっと、ロザリーのように優しく心を癒してくれるような歌声だって、ルキウス様もおっしゃっていましたもの」

 ルキウスは昔から、状況把握能力に長けている。
 そのルキウスが言うのだから、間違いない。彼はそうした話をするときに、私相手でも、無理なものを可能だとは言わない。