「私が早く着いてしまっただけですわ。急かしてしまってごめんなさい、ロザリー」
「マリエッタ様が謝罪なさることなど、なにも……!」
ひとつ年下の、ロザリー・アバロス。
貴族ではなく平民出身の彼女は、ルザミナ教会の聖歌隊に属している。
聖女信仰の強いこの国で聖歌隊に入れるのは、平民の女性のみ。
審査を通過し入隊が決まると、少女たちはルザミナ教会のサポートを受けながら、寮での生活を送ることになる。
たとえ、いくつであっても。
ロザリーと共に訪れたのは、近頃ご令嬢方がご執心だというカフェテリア。
運ばれてきたこの店一番のシフォンケーキを一口堪能して、私は「~~やっぱり噂通り、とても美味しいですわね……!」と、同じく目を輝かせているロザリーを見遣る。
「入るまでに時間がかかってしまったけれど、待ったかいがありましたわ」
「本当に、とっても美味しいですね。生地が口の中で溶けていくようです。素敵なお店にお連れいただき、ありがとうございます、マリエッタ様」
「あら、お礼を言わなくちゃいけないのは私の方ですわ。聖女祭前の大事な時に、連れ出してしまっているのだもの」
一年に一度、国を挙げて聖女の誕生と加護を祝う、聖女祭。
来月この王都では、例年のごとく大規模な聖女祭が行われる。
ロザリーたち聖歌隊は、ルザミナ教会で歌うのだけれど。
その時に聖歌隊の中で一番に名誉ある"エストランテ"の称号を得た少女は、歌姫として人々の羨望を受けるのだ。
加えて、"エストランテ"となった少女は、平民の身でありながら社交界への参加が認められる。
代々のエストランテたちは大半が社交界で貴族の男性に見初められ、聖歌隊を去ることが多いという。
「今年のエストランテは、ロザリーで決まりでしょうね」
うんうんと頷きながら言う私に、ロザリーは慌てたように首を振って、
「そんな、私にはとても恐れおおくて……」
「弱気はいけませんわ、ロザリー! この私が認めた歌声ですのよ? むしろ、これまでエストランテとされていなかったのが不思議なくらいですわ」
実のところ、私は歌が上手くはない。どれだけ練習しようと、なぜかちっとも克服できなかった。
貴族の女性は人前で歌うことを良しとされていないので、将来嫁ぐ身としては、さほど支障はないのだけれども。
「マリエッタ様が謝罪なさることなど、なにも……!」
ひとつ年下の、ロザリー・アバロス。
貴族ではなく平民出身の彼女は、ルザミナ教会の聖歌隊に属している。
聖女信仰の強いこの国で聖歌隊に入れるのは、平民の女性のみ。
審査を通過し入隊が決まると、少女たちはルザミナ教会のサポートを受けながら、寮での生活を送ることになる。
たとえ、いくつであっても。
ロザリーと共に訪れたのは、近頃ご令嬢方がご執心だというカフェテリア。
運ばれてきたこの店一番のシフォンケーキを一口堪能して、私は「~~やっぱり噂通り、とても美味しいですわね……!」と、同じく目を輝かせているロザリーを見遣る。
「入るまでに時間がかかってしまったけれど、待ったかいがありましたわ」
「本当に、とっても美味しいですね。生地が口の中で溶けていくようです。素敵なお店にお連れいただき、ありがとうございます、マリエッタ様」
「あら、お礼を言わなくちゃいけないのは私の方ですわ。聖女祭前の大事な時に、連れ出してしまっているのだもの」
一年に一度、国を挙げて聖女の誕生と加護を祝う、聖女祭。
来月この王都では、例年のごとく大規模な聖女祭が行われる。
ロザリーたち聖歌隊は、ルザミナ教会で歌うのだけれど。
その時に聖歌隊の中で一番に名誉ある"エストランテ"の称号を得た少女は、歌姫として人々の羨望を受けるのだ。
加えて、"エストランテ"となった少女は、平民の身でありながら社交界への参加が認められる。
代々のエストランテたちは大半が社交界で貴族の男性に見初められ、聖歌隊を去ることが多いという。
「今年のエストランテは、ロザリーで決まりでしょうね」
うんうんと頷きながら言う私に、ロザリーは慌てたように首を振って、
「そんな、私にはとても恐れおおくて……」
「弱気はいけませんわ、ロザリー! この私が認めた歌声ですのよ? むしろ、これまでエストランテとされていなかったのが不思議なくらいですわ」
実のところ、私は歌が上手くはない。どれだけ練習しようと、なぜかちっとも克服できなかった。
貴族の女性は人前で歌うことを良しとされていないので、将来嫁ぐ身としては、さほど支障はないのだけれども。