「いくらお前さんの馴染みだとはいえ、こんな得たいの知れない店で怪しげな相手から、初めて見るお茶と菓子を出されてさ。普通のご令嬢なら、嫌がって口を付けないだろうよ。良くて礼儀程度に、お茶に口をつけるフリかな。だというのに、あんなキラキラした目で美味しい美味しいって平らげちまって、心の温かな国なんでしょうねって」

 ミズキはクツクツと喉を鳴らして、茶化すように細めた目で僕を見る。

「十にも満たない子供に将来の伴侶を決めさせるなんて、我ながら酷なことをしちまったと良心が痛んでいたんだけども。あんな純粋で綺麗な子がお相手なんじゃあ、必要のない心配だったね。今日の今日まで紹介してくれなかった理由がよく分かったよ」

「いくらミズキとはいえ、マリエッタに手を出したらただじゃおかないよ」

「おやま、そんなに私は信用ないかねえ。あの子の破滅回避に向けて、さんざん悩み合った仲だというのに」

 顔を袖で覆ってさめざめと泣くふりをしてみせるミズキに、僕はため息をひとつ。

「だからこそ、だよ。ミズキは僕とあの夢と共有しているぶん、他よりもマリエッタに思い入れがあるのだもの。気に入った相手には、とことん甘いだろう、キミ」

「なあに、ルキウスほどではないさ」

「マリエッタの一番がアベル様なのは仕方ないとはいえ、二番の座は誰にも取られたくないんだよね」

「それは私が決めることではないよ。これまで"婚約者"として側にいたというのに、随分と弱気なもんだねえ、ルキウス?」

 楽しそうに笑うミズキには、僕の心情なんて絶対に伝わらない。
 マリエッタに好いてもらえるように、マリエッタに、選んでもらえるように。大切に、大切に。
 女性が好むだろう紳士のつもりで接し続けた結果、"妹扱い"だと一蹴されてしまった、僕の心情なんて。

「……ミズキには分からないよ」

「あっはは! いくら"黒騎士"の二つ名を得ようと、若いねえ、ルキウス」

「……ミズキ、そろそろ本当の歳を教えてくれたっていいんじゃない?」

「そうしてやりたいのは山々なんだけれどね、自分でもとっくに忘れちまったのさ」

(また誤魔化して……)