目を閉じると浮かぶ、高貴な令嬢であろうとすまし顔をしてみせる、マリエッタのツンとした顔。
 僕の表情は緊張感がなさすぎるからもっと引き締めろと怒る顔に、言い方が悪かったと、ひっそりと落ち込んでいる顔。

 苦手なことも納得いくまで何度だって諦めずに挑んで、やり遂げた時には即座に報告してくる、嬉し気な顔。
 そして、なによりも。

「ね、ルキウスさま。ルキウスさまは私を大好きなようだから、私もいちばんに、なかよくしてあげてもよくってよ?」

 強気な言葉とは裏腹に、照れくさそうに頬を染めて。
 チラチラと僕を見上げてくるマリエッタは、さぞかし不安だったに違いない。

「ありがとう、マリエッタ。すごく嬉しいよ」

 そう返した途端に、心底嬉しそうに笑ってくれた顔。

「ま、とはいえ」

 ミズキの声が、僕の意識を引き戻す。

「将来を決めるには、まだ早すぎる年だろう? 見たところ、十もいってないようだしねえ。じっくりとよく考えて――」

「その必要はないよ」

 僕はミズキをまっすぐに見つめながら、

「僕は、マリエッタと婚約する。……必ず、婚約してみせる」

「……そそのかしたのは私だけれどもね、本当にいいのかい? お前さんは、まだまだこれから世界が広がっていく。知識も、人間関係もね。夢はただの夢で終わってしまうかもしれないし、お前さんだって、心から好いた相手が出来るかもしれない」

「心配ないよ。だって僕は、マリエッタが可愛くてたまらないもの。この気持ちがもっと膨らむことはあっても、他に移ったり、無くなってしまうなんてあり得ない」

「……そうかい。強い子は好きだよ」

 ミズキは優しい声でそう言うと、僕の"湯呑み"というカップにお茶を追加で注いでくれる。

「私のところには、いつでも来てくれて構わないからね。好きなように頼っておいで」

 そうして決意を固めた僕は家に戻るなり、父上にマリエッタとの婚約を願い出た。
 父上は驚いていたけれど、僕とマリエッタが既に仲が良かったこともあって、特に深く追求もせずにマリエッタの父上に話をしてくれた。

 回答は、早かった。
 マリエッタが喜んで了承してくれたからではない。マリエッタの父上が、二つ返事で了承してくれたからだ。