「単にその場にいなかっただけか、同じ時間軸には存在しえないってことか……難しいところだね」

 ふうむと呟いて、ミズキが「根本的なところなのだけれどね」と僕を見る。

「お前さんはどうして、その夢が運命かどうかを知りたいんだい?」

「それは、マリエッタを悪女になんて……あんな死に方で失うなんて、絶対に嫌だから」

「つまりお前さんの目的は、王子様に婚約破棄をされた挙句に殺される幼馴染のご令嬢を、"運命"から助けることかい?」

「……うん。そうだね」

「なら、ちょいと手荒だが、策はある」

「! 本当!?」

 勢いよく立ち上がった俺に、ミズキはにたりと悪い笑みを浮かべて、

「王子様との婚約破棄が起点なら、そもそも婚約をさせなきゃいいのさ」

「それは……そう、だけど。理由も言えないのに、ただ僕が"王子とは婚約するな"って忠告するだけじゃ、きっと取り合ってもらえないよ」

「だろうねえ。そこでだ、お前さんが王子よりも先に、マリエッタ様と婚約しちまえばいい」

「…………え?」

 呆けた顔で静止した僕に、ミズキはくっくと喉を鳴らしながら、

「私は貴族のしきたりにはそこまで詳しくないけれどもね、お前さんらの婚約ってのは、簡単に破棄できるようなものじゃないんだろう? なら、こっちが先にその席を取っちまえばいい。その夢が本当にマリエッタ様の未来なのだとしたら、運命が二人を引き合わせようとするだろうけども、手札がこちらにあれば、抵抗の余地があるしね」

 ただし、と。
 ミズキは首を軽く揺らし、簪をしゃらりと鳴らす。

「婚約するのはお前さんだ。お前さんは、そのご令嬢と結婚しなきゃならない。そればかりか、マリエッタ様は一生お前さんを愛してはくれないだろうよ。なぜなら彼女の運命の人は、王子様なのだからね。それでもマリエッタ様を"もしも"の未来から救い出したいという覚悟が、お前さんにあるのなら」

「…………」

 覚悟。
 僕の夢を"運命"だと信じてマリエッタと婚約し、結婚して、愛されなくても生涯を共にする覚悟。

(いや、愛されないばかりか、恨まれる可能性だって)

 だって僕は、マリエッタの"運命の人"じゃないのだから。

(それでも僕は)